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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百六話 「文明というものは、“間違っていると分かっていても止まれなくなる瞬間”があるので、ベルタリュオン人は“感情へ戻りたい”のに感情を理解できません」


 ベルタリュオン。



 中央共鳴管理都市。


【ゼル=アーク】


 空は銀色だった。


 昼。


 なのに。


 薄暗い。


 超高層塔群。


 浮遊回廊。


 白銀光。


 静かな空中交通。



 全てが、整いすぎていた。



 美しい。


 だが。


 温度が無い。


 都市中央。


 巨大共鳴塔。



挿絵(By みてみん)



 その最上層。


【中央観測会議室】


 白い円卓。


 座る。


 ベルタリュオン高位観測存在達。


 全員。


 感情変動、極小。



 そして。


 空間中央。


 地球観測映像。


 映っていたのは。


 東央マテリアル。


 対策部。



 野村部長。


 パンを配っている。



 キノピー。


 塩パンへ突撃。



 佐伯。


 ツッコミ。



 リゼ。


 笑っている。



 そして。


 アイン。


 小さく笑っていた。



 静寂。


 会議室空気。


 少しだけ、重い。


 観測存在の一人が、静かに告げた。


「……進行しています」


 白い文字列。


【感情同期率上昇】


【地球側価値観適合】


【ベルタリュオン帰属意識低下】



 別の個体。


「危険域到達まで、推定六ヶ月」



 また別の個体。


「予測通りです」



 静寂。



 その時。


 オリジンが、静かに口を開いた。


「……何故」


「“失敗”と定義する」



 会議室。


 一瞬、止まる。



 高位観測存在が答える。


「アインは地球適合しすぎています」


「任務目的は“観測”でした」


「しかし現在、“帰還後精神整合性”が保証できない」


「既に複数異常発生確認」



 空間展開。


 アイン観測ログ。


【笑顔発生】


【雑談自発参加】


【無意味会話滞在時間増加】


【対象佐伯美咲への視線追尾頻度異常】


【ノベェンタ発言への情緒反応】


【対策部空間滞在時、波動安定率上昇】



 沈黙。



 そして。


「最重要問題」


 文字列追加。


【共鳴塔未接続状態での身体維持成功】


 空気が、少しだけ揺れる。


 高位存在が続ける。


「本来ベルタリュオン人は、長期間共鳴塔補助無しでは波動崩壊が進行する」


「しかしアインは」


「地球滞在中、逆に安定率が向上している」



 空間中央。


 波形グラフ。


 表示。


【東央マテリアル対策部滞在時】


【精神波動安定率:異常向上】


【生体維持効率:改善】


【崩壊遅延率:予測外】



 静寂。


 長い。



 別個体が、低く呟く。


「……地球人類との情緒共鳴が」


「生体維持へ影響している可能性」



 即座に、別個体。


「非合理です」


「感情が生命維持へ関与する根拠は存在しない」



 だが。


 誰も。


 波形結果を否定できない。



 オリジンは、静かに映像を見る。


 そこには。


 笑っているアイン。


 ベルタリュオンでは、もう存在しない顔。



 高位存在が、低く告げる。


「問題はそこです」


「もしアインが“地球側存在”として固定された場合」


「ベルタリュオン帰還後、精神崩壊が発生する可能性がある」


「何故なら」


「ベルタリュオンには、もう“温度”が存在しない」



 沈黙。



 重かった。



「感情へ適応した個体は」


「感情の無い環境へ戻れない可能性が高い」


「つまり」


「アインは“救済されながら故郷へ適応不能化”している」



 それが。


 ベルタリュオン側が、“失敗”と定義する理由だった。



 会議室。


 静かだった。


 かなり。



 その時。


 地球映像。



 キノピー。


 塩パン盗み食い。



 佐伯。


「こらぁぁぁ!!」



 野村部長。


「まぁまぁ〜♡」



 リゼ。


 笑う。



 アイン。


 小さく。


 本当に小さく。


 楽しそうだった。



挿絵(By みてみん)



 その瞬間。


 会議室内。


 複数個体の波動周波数が僅かに乱れる。


【原因不明】


【観測継続】


【胸部圧迫感類似反応】


【視線固定率上昇】


【地球映像優先観測化】



 沈黙。



 誰も、意味を定義できない。



 ただ。


 通常なら即座に切断されるはずの地球映像を。



 誰一人、閉じようとしなかった。


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