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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百一話 「魔法使いには偶然が存在しないので、“成功する未来を先に信じ切った者”から現実を書き換え始めます」


 東央マテリアル。


 地下第三層。


 午後七時二十八分。



 残業時間だった。


 コピー機。


 缶コーヒー。


 蛍光灯。


 疲労。


 完全に。


 現代社会。



 佐伯は、机へ突っ伏していた。


「……人類、なんで働いてるんですかね……」



 ノベェンタは、静かにコーヒーを飲んでいた。


「生存と承認と生活費ですね。あと人類、“誰かの役に立ってる感覚”失うと精神不安定化しやすいので。仕事、“金稼ぎ”だけじゃなく、“存在証明”として機能してる場合あります」



 佐伯、遠い目。


「急に社会学講義始まるんですよねこの人……」



 その時。


 リゼが、静かに窓を見ていた。


 夜。


 高知の街灯。


 少し滲んでいた。


「ねぇ」


 全員が見る。


「“信じるだけで現実変わる”って言ったら、人類どこまで信じられると思う?」



 佐伯、即答。


「いやスピリチュアル案件ですよね?」



 アインは、静かに頷いた。


「科学的根拠不足です」



 しかし。



 ノベェンタだけ、静かだった。


「……完全否定も難しいんですよ」



 佐伯。


 嫌な予感。


「始まった」



 ノベェンタは、静かに眼鏡を上げた。


「量子力学、“観測されるまで状態未確定”という話あるので。つまり極論、“世界は最後まで完全決定してない”可能性ある。電子も光も、“見るまで複数可能性重なってる”挙動示す場合あるんですよ」



 佐伯、停止。


「……え?」



「つまり人類、“現実は最初から固定済み”と思い込んでますが、実際かなり“観測依存”寄りな可能性ある。だから魔法使い、“偶然成功した”と考えない。“成功する世界線を先に観測固定した”と認識するんです」



 コピー機だけ動いていた。



 アインは、少し考える。


「……可能性選択理論」



 ノベェンタは、頷いた。


「はい。魔法、“無から火を出す”というより、“火が出る可能性”へ現実側を寄せる技術寄りなんですよ。つまり重要なの、“技術”より“確信”。だから魔法使い、“自分が失敗する未来”を本気で信じてない場合ある」



 リゼが、静かに微笑む。


「だから願いって、“叶うか不安な祈り”じゃなく、“もうそうなる前提の感覚”が大事なのよね。“欲しい”より、“私はそれを受け取る存在だ”って安心した時、人って急に流れ変わることある」



 佐伯、困惑。


「いやでも、そんな都合良く現実変わります?」



 ノベェンタは、静かに佐伯を見た。


「佐伯さん」


「ハルバード、最初から出せました?」



「……あ」



「最初、“無理”と思ってましたよね」



「……はい」



「でも今、“出せる前提”で振ってる」



 佐伯、止まる。


 完全に。



「人類、“自分は出来ない”観測固定すると、本当に能力制限掛かる場合あるので。逆に、“出来る側”へ認識切り替わった瞬間、脳も身体も現実認識も変わり始める。スポーツ、受験、恋愛、創作。この辺かなり顕著です」



 静かな空気。



 その時。


 黒い文字列。


【不可能】


【失敗】


【無理】


【才能が無い】


 空間侵食。


 対策部全体へ、黒い霧が広がる。



 佐伯、顔をしかめた。


「うわっ……なんか急に“どうせ無理感”来たんですけど……」



 ノベェンタは、静かに目を細めた。


「……“自己否定固定型認識災害”ですね」



 黒い影。


 現れる。


 巨大だった。


 人型。


 だが。


 顔が無い。


 全身へ、否定文字列。


【お前には無理】


【どうせ失敗する】


【期待するな】


【叶う訳がない】


 空気が重い。


 かなり。



 佐伯。


 ハルバードを握る。


 だが。


 少し震える。


「……っ」



 その時。


 ノベェンタが、静かに言った。


「佐伯さん」



「はい……?」



「今、“負けるかも”観測しましたね」



 心臓。


 止まる。



「人類、“脳内で何回も失敗シミュレーション”しやすいので。でもそれ、“未来予測”じゃなく、“失敗世界線の反復観測”なんですよ」



 佐伯。


 ゆっくり、息を呑む。



 ノベェンタは、静かに続けた。


「魔法使いには偶然が存在しません」



 黒い粒子。


 空間へ広がる。


「“成功したから信じる”じゃない」


「“成功する前提で観測固定し続ける”」


「だから現実側が、後から辻褄を合わせ始める」



 佐伯。


 その言葉を、理解していく。


 ゆっくり。


 だが。


 確実に。


「……じゃあ」


 赤い光。


 ハルバード。


 展開。


「私、“勝つ前提”で考えればいいんですか?」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「はい」


「だって佐伯さん、もう何回も世界救ってるので」



 佐伯。


 目を見開く。


 その瞬間。


 空気が変わった。


 自分は無理。


 その固定観測が、少し剥がれる。


 佐伯は、ゆっくり前へ出た。


 赤い粒子。


 熱量上昇。


 瞳。


 強い。


「……そっか」


「私、もう“出来る側”なんだ」



 その瞬間。


 巨大認識災害。


 揺れる。


【観測変化確認】


【自己否定率低下】


【固定失敗】



 佐伯、ハルバードを構える。


 迷い無し。



「《超現実固定型紅蓮概念突破術式・ヴァルキリーレゾナンス・ブレイバー》!!」



 赤い閃光。


 空間。


 縦断。


 巨大否定存在。


 崩壊。


【ありえない】


【何故】


【何故信じられる】



挿絵(By みてみん)



 消滅。



 佐伯は、息を切らしながら立っていた。


「……なんか今」


 少し笑う。


「本当に、“そういう世界”な気がしました」



 ノベェンタは、静かにコーヒーを飲んだ。


「人類、“現実は固定済み”と思い込みすぎなので。実際、“自分がどう観測してるか”で、人生かなり変わる場合あります」



 アインは、静かに呟いた。


「……つまり人類、“自分自身へ魔法を掛け続けている”?」



 リゼが、優しく微笑む。


「たぶんね」


「“私は大丈夫”って信じるのも、一種の魔法なのよ」



 その時。


 野村部長。


 コンビニ袋持って帰還。


「いやぁ〜♡ 唐揚げ半額だったよぉ〜♡」



 全員。


 振り向く。



 野村部長、笑顔。


「“今日は残ってる”って信じてたんだよねぇ〜♡」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「……魔法使いですね」



「違いますからね!?」


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