↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昔話を今語る  作者: 多幸
PR
2/15

第二話 呪いの玉手箱

今々、あるところに、一人の青年がおりました。


青年の名前は、阿倍野浩二。


どこにでもいる、冴えないサラリーマンです。


そんな阿倍野は、最近、あることに困り果てていました。


「おい! 阿倍野!!」


今日も今日とて、部長の怒鳴り声がオフィスに響き渡ります。


「お前、今月の営業成績はどうなってるんだ!?」


そう。


阿倍野は営業成績が悪く、毎日のように部長から怒られていたのです。


しかし、困ってることはそんなことではありません


そんなことは、阿倍野にとって当たり前だからです


部長のお叱りなど、右から左へ聞き流すだけ。

簡単なお仕事のようです


「お前はいつになったら結果を出すんだ!」


「……はい」


「はい、じゃないだろう!」


「……はい」


「だから、はいじゃないと言ってるだろうが!!」


まったく聞いていません。


では、彼女ができないことでしょうか。


いいえ。


そんなもの、生まれてこの方、

一度もできたことがありません。


今さら悩むようなことではないのです。

もはや、諦めています


では、友達が一人もいないことでしょうか。


これも違います。


阿倍野は昔から、人とは浅く付き合ってきました。


友達など、最初からいなかったようです


では、いったい何に困っているのでしょうか。


それは――。


「……玉手箱」


「何?」


部長が眉をひそめました。


しかし、阿倍野の意識は、すでに別のところにありました。


そう。


玉手箱です。


数日前、趣味の釣りをしていた阿倍野は、一匹の大きな

海亀を釣り上げました。


その海亀は、なんと人間の言葉を喋り、

あげると言って一つの箱を置いていったのです。


その名も、玉手箱。


もちろん、阿倍野は信じていません


黒ずんだ汚い

気味の悪い箱、持っていたくもありません。


その場で海へ蹴り飛ばしました。


ところが。


翌朝、目を覚ますと、枕元に玉手箱が置いてあったのです。


「…………」


阿倍野は箱を見つめました。


そして、もう一度窓から投げ捨てました。


しかし、翌朝には戻っていました。


ゴミ袋に入れて捨てても、戻ってくる。


遠くの公園に置いてきても、戻ってくる。


何度捨てても、翌朝には枕元に置かれているのです。


「……呪いの箱だ」


阿倍野は思いました。


「なんか、あれだ。誰かになすりつけるべき箱だ」


それ以外の言葉が出てきません。


そんなわけで、阿倍野は現在、部長のお叱りを受けながらも、玉手箱のことで頭がいっぱいなのでした。


誰かに渡さなければ、それで頭がいっぱいです


「……おい、阿倍野!」


「…………」


「聞いているのか、阿倍野!!」


「……あ、はい」


阿倍野は顔を上げました。


「部長」


「なんだ!」


「玉手箱、いります?」


「ばっかもん!!」


部長の怒鳴り声が、オフィス中に響き渡りました。


今日も、昨日と同じように怒られています。


それは何も変わりません。


日常茶飯時なんで誰も気にしませんでした


ただ、一つだけ変わったことがあります。


阿倍野は、玉手箱という奇妙な箱に

追われるようになったのでした。


箱にストーカーされている警察は何とか

してくれるでしょうか


長い、長い説教が終わったあと。


阿倍野は一人、喫煙室にいました。


「……はぁ」


椅子に腰を下ろし、深いため息をつきます。


「……どうすっかなぁ」


考えているのは、もちろん玉手箱のことです。


部長の言葉は一つも覚えていません


何度捨てても戻ってくる。


どうやって捨てればいいのか。


そもそも、なぜ戻ってくるのか。


阿倍野はしばらく考え込んでいました。


「…………」


そして。


「……あっ」


何かを思いついたようです。


「そうだ……ネットオークションに出そう」


阿倍野はスマートフォンを取り出しました。


そして、気持ち悪い笑みを浮かべます


捨てても戻ってくる。


どこに置いてきても、翌朝には枕元にある。


ということは。


「……売っても戻ってくるんじゃねぇの?」


阿倍野の目が輝きました。


「おお……!」


売る。


戻ってくる。


また売る。


また戻ってくる。


「……一生稼げるじゃねぇか!!」


阿倍野は思わず立ち上がりました。


これだ。


これしかない。


今まで気味が悪いと思っていた玉手箱が、

突然、宝の山に見えてきました。


「……なんだよ」


阿倍野は笑いました。


「呪いなんかじゃねぇじゃん」


「俺を楽にするために、神様が送ってくれたんだな……!」


阿倍野は天井を見上げました。


「……ありがてぇ」


神様からの祝福と拝んでいました


阿倍野頭にはもう売れると確信しかありません


でも考えてみてください


買った人間の手元から商品が消えたらどうなるのか。


返金を求められるのではないか。


詐欺だと疑われるのではないか。


そんなことは、頭の片隅にもありません。


阿倍野の頭の中にあるのは、ただ一つ。


「……これで会社辞められるじゃん」


働かなくていい。


毎日、好きなだけ寝ていられる。


そして、好きなときに釣りへ行ける。


「……最高じゃねぇか」


阿倍野は、にやにやと笑いながらスマートフォンを操作し始めました。


こうして、冴えないサラリーマン、阿倍野浩二は、玉手箱をネットオークションで売り、戻ってきたところを回収して、再び売るという画期的な商売を思いついたのでした。


本人は、これで一攫千金を狙えると確信しています。


その玉手箱が、どれほどの代物なのかも知らずに。


めでたし、めでたし。


――おしまい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。