第5話 前編 納品の朝
ギルドの受付で、討伐証の耳を並べた。
「ゴブリンの耳が、七つ。……七つ、ですか」
ミーナが、目を丸くしていた。
「偵察隊は、六匹じゃなかったのか」
「あ、いえ。依頼書には『数匹』とだけ。まさか、一晩で七匹を……お二人だけで?」
「準備をしていたからな」
「準備」
彼女はまじまじと俺を見て、それから、俺の隣に立つシルファに目を移した。黄色いレインコートの下で、耳をすっぽり隠した少女が、小さく頭を下げる。
「ええと、そちらの方は」
「俺の連れだ。弓が得意でな」
「そうなんですね。……よろしくお願いします」
ミーナは愛想よく微笑んだが、シルファのほうは、ほんの少し固い表情で会釈した。俺の腕をつかむ手に、わずかに力が入っている。
(なんだ?)
首を傾げる俺をよそに、ミーナは報酬の袋を取り出した。
「討伐報酬が銀貨五枚、耳の追加分が銅貨十四枚。合計で、銀貨六枚と銅貨四枚です。それと」
彼女は、少し声を落とした。
「レイジさん、昇格の対象になりました。Fランクから、Eランクへ」
「昇格? もうか」
「グレイウルフの報告、畑荒らしの討伐、今回の依頼。短期間で、三件の実績ですから。ギルド長も、驚いていました」
周囲で、ひそひそと声がした。
「あの荷物持ちが、昇格だって?」「ゴブリン七匹を、一晩で? 嘘だろ」
視線が、背中に突き刺さる。昨日までとは、種類の違う視線だった。
「……ありがとう。助かる」
「いえ、当然の評価です」
銀貨を受け取り、ギルドの出口へ向かった。その途中で、酒場のほうから、荒々しい声が飛んできた。
「ふざけんじゃねえ!」
視線を向けると、見覚えのある大男が、テーブルを拳で叩いていた。
ボルクだった。
『赤牙』の面々が、揃って酒場の隅に陣取っている。だが、様子がおかしい。ダインは顔色が悪く、腹を押さえてうなだれていた。魔法使いの女は、疲れた顔で髪を乱している。
「依頼は半分も終わってねえ! 飯は腐ってるし、水は足りねえし、誰が荷物を管理してたんだ!」
「……荷物持ちは、お前がクビにしたろ」
ダインの呟きが、やけに大きく響いた。
酒場が静まった。
ボルクの顔が、赤黒く染まる。
「なんだと、てめえ」
「いや、だって、事実だろ。あいつがいた頃は、誰も腹を壊さなかった」
「黙れ!」
ボルクが立ち上がろうとして、テーブルに脛をぶつけた。ガタン、と盛大な音がして、周囲から、小さな失笑が漏れる。
俺は、何も言わずに視線を外した。
(ざまぁ、なんて思う余裕はない)
あいつらの失敗は、あいつらの問題だ。
それでも、足取りが少しだけ軽くなったのは、否定できなかった。
「レイジ」
隣から、シルファが袖を引いた。
「あの人たち、あなたを悪く言った人たちよね」
「ああ。まあ、昔の話だ」
「……ふうん」
彼女は、なぜか少し、満足そうな顔をしていた。
ギルドを出て、陽の光の下で、俺は報酬の袋を確かめた。
「さて。まとまった金ができた。そろそろ、宿暮らしから抜け出そうと思う」
「宿を、出るの?」
「ああ。拠点を構えたい。通販の道具を、ちゃんと使える場所が欲しい」
宿の狭い部屋では、買った商品を置く場所にも限りがある。それに、シルファの耳を隠し続けるのも、そろそろ限界だった。
「街の外れに、空き家が多い区画があるって聞いた。今日は、そこを見に行こう」
「うん」
シルファは、少しだけ頬を緩めた。
「楽しみ」
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