第30話 前編 九日目の備え
満月まで、あと九日。
ホルストの塔の一室は、いつの間にか、作戦本部になっていた。壁には大聖堂の見取り図、床には、通販で買った荷物の山。
「まず、整理しましょう」
セレスが、羊皮紙の前に立った。
「儀式の当日、動く場所は三つ。大聖堂の本堂、供物の間、そして、観覧席です」
「観覧席?」
「教会の有力者が、立ち会う席です。ここで、ガルシアの告発を、成立させます」
ローデンが、頷いた。
「俺は、査問会の三人に、事前に、話を通してある。二人は、こちら側だ。もう一人は、まだ、揺れている」
「揺れている一人は」
「大司教補佐のイグナーツ殿。慎重な方だ。確かな証拠を、目の前で見せれば、動く」
「記録の再生は、俺がやる」
俺は、小型のスピーカーと、ボイスレコーダーを並べた。
『ポータブルスピーカー(大音量) 銅貨 5 枚』
「大聖堂は、音が響く。全員に、聞こえるはずだ」
「頼もしいですね」
セレスが、口元を緩めた。
「それと、もう一つ」
彼女の指が、地図の一点に止まった。
「供物の間には、青印の戦闘員が、常駐しています。数は、およそ八人。ヴェイルも、そこにいる可能性が高い」
「里の人たちを、救出するのは」
「シルファさんと、長老様、そしてレイジ様です。扉を開けるのは、エルフの血が必要ですから」
シルファが、静かに、頷いた。
「私が、開ける」
「無理は、しないで」
「しないわ。……でも、やる」
その目は、決意で、澄んでいた。
夕方、ホルストが、小さな木箱を、持ってきた。
「渡しておきたいものがある」
蓋を開けると、中には、古びた、真鍮の羅針盤が入っていた。
「マレンが、残していった。星の位置を、読むための道具だ」
「これは」
「第三の鍵の、手がかりになるかもしれん。ただ、まだ、針が動かない」
羅針盤は、手のひらほどの大きさで、針が、どの方角にも、定まらず、ゆらゆらと揺れていた。
「鍵が、揃ったとき、針は、一点を、指すだろう」
「ありがとうございます。大切に、使います」
受け取ると、懐の板が、微かに、震えた。
画面に、一行。
『それは、私の、一部です』
「……一部?」
『マレン様が、私を、守るために、分けた、欠片です』
息を呑んだ。
「板を、守るため?」
『はい。詳しくは、第二の鍵が、解かれたときに』
それ以上、板は、答えなかった。
ホルストが、静かに、髭を撫でた。
「……そういうことか。マレンは、板を、二つに、分けていたのか」
「ご存じなかったのですか」
「いや、薄々は。ただ、確証がなかった」
羅針盤を、掌で、そっと包んだ。ほんのり、温かかった。
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