第29話 後編 十二人の居場所
その夜、シルファと俺は、ホルストの塔の屋上に、立っていた。
城壁の向こうに、雪原が、白く広がっている。空には、七分ほどに満ちた月が、浮かんでいた。
「里の十二人は、どこにいるのかしら」
「旧倉庫、と長老は言っていた。ガルシアも、儀式の前に、解放すると」
「約束を、守ると思う?」
「思わない」
即答すると、彼女は、小さく頷いた。
「私も。……だから、先に、居場所を確かめたい」
「ああ。ローデンの、隊員が、探ってくれている」
しばらく、無言で、月を見た。
「ねえ、レイジ」
「ん?」
「おじいさまが、言ってた。板の、心のこと」
「……ああ」
「あなたは、板を、どう思ってるの」
答えを、考えた。
「最初は、便利な、道具だと思った。次に、得体の知れない、遺物だと思った。今は」
「今は?」
「相棒、かな。……たまに、メッセージをくれる、無口な」
シルファが、ふふ、と笑った。
「無口で、でも、優しい?」
「優しいと、思う。『あなたを、傷つけません』って、書いてくれたから」
「そうね」
彼女は、少しだけ、俺の肩に、頭を預けた。
「もし、三つ目の鍵を、開けたら。縁が、失われるって」
「ああ」
「私が、失われるのかな。それとも、あなたが」
「開けない」
きっぱりと言った。
「第三の道を、探す。そのために、ホルストさんも、マレンも、頑張ってきたんだ」
「……うん」
「それに」
俺は、少しだけ、照れながら言った。
「君を、失うなんて、考えたくもない」
「…………」
沈黙。
シルファの耳が、きゅっと、赤くなった。
「ば、ばか。急に、そういうこと」
「事実だ」
「だから、困るって、言ってるでしょ」
彼女は、顔を、俺の肩に、ぐりぐりと、押しつけた。
その時、塔の階下から、ローデンの声が、響いた。
「レイジ! 報せだ!」
駆け下りると、息を切らした聖騎士が、一人、立っていた。
「隊員のフェルナンです。旧倉庫を、探りました。里の十二人は、確かに、います」
「無事か」
「全員、生きています。ただ」
フェルナンの顔が、曇った。
「昨夜、地下から、別の場所へ、移されました。行先は、大聖堂の、さらに下層。儀式の、供物の、間です」
「供物の、間……」
セレスが、息を呑んだ。
「第二の鍵の、儀式の、生贄にされるのでは」
「そんな」
シルファの顔から、血の気が、引いた。
長老が、ゆっくりと、寝台から、身を起こした。
「……供物の、間には、わしが、行く」
「おじいさま、体が」
「わしは、里の、長だ。民を、見捨てるわけには、いかん」
老人の目に、静かな、炎が、宿っていた。
「それに、あの間の、扉は、エルフの、血でしか、開かぬ。古い、約定だ」
「血で……」
「里の者だけが、扉を、開けられる。つまり、ガルシアは、儀式のために、わしらを、利用している」
俺は、板を、見た。
画面に、短い、文字が、浮かんでいた。
『満月まで、あと、九日』
「十日あれば、準備はできる。……行こう。里の人たちを、全員、連れ戻す」
シルファが、強く、頷いた。
「ええ。今度こそ」




