第29話 前編 猶予の十日間
ホルストの塔に戻ったのは、夜明け前だった。
長老は、最上階の寝台に横たえられた。ホルストが湯を沸かし、シルファが、ココアを一匙ずつ口へ運ぶ。
「……甘い。昔、孫が、似たものを、淹れてくれた」
「それは、私よ、おじいさま。木の実の蜜で」
「そうだった。そうだったな」
長老は、目を細めて、笑った。三年ぶりの、孫の手だった。
昼過ぎ、全員で、卓を囲んだ。
「まず、日数を確認します」
セレスが、羊皮紙に、線を引いた。
「昨夜の救出は、当初の予定より、早く動いたものでした。ヴェイルの期限である満月まで、残りは、十日です」
「ガルシアに、『満月の夜、大聖堂で板を渡す』と約束した。つまり、儀式の日と、期限は、同じだな」
「はい。猶予は、十日。その間に、三つのことをします」
指が、順に、立てられた。
「一つ目。里の十二人の、安否確認と、所在の特定。二つ目。ガルシアの告発の、下準備。三つ目。大聖堂での、儀式の、対策です」
ローデンが、腕を組んだ。
「告発は、俺が動く。査問会に、マルクとの会話記録を、提出する。ただし、成立は、儀式の後だ」
「それなら、儀式の最中に、告発を成立させればいい」
俺が言うと、全員が、こちらを見た。
「儀式には、教会の、有力者が、立ち会うはずだ。その前で、記録を、再生する」
「……公開の、場で」
「ドルトンの件と、同じだ。複数の目の前で、事実を、見せる」
セレスの口元が、緩んだ。
「試飲会の、応用ですね」
「営業の、基本だ。第三者に、語らせる」
ローデンが、目を見開いて、それから、にやりと笑った。
「……面白い。やってみよう」




