第30話 後編 供物の間への道
出発の夜は、作戦会議から二日後、ガルシアとの約束の七日前に定めた。
「儀式の七日前に、里の十二人を、確保する。それなら、告発の準備にも、余裕が持てる」
「ガルシアは、満月の夜まで、十二人を、動かさないはずだ」
「その油断を、突きます」
深夜。
旧礼拝堂の、裏手の通用口に、全員が、集まった。
先頭は、ローデン。続いて、シルファ、長老、俺。ティオと、セレスは、地上で、待機する。
「ティオ、今度は、ちゃんと、隠れててね」
「はい、姉さん。ホイッスルは、いつでも」
「無理は、禁物よ」
「分かってます」
少年は、胸を、張った。前回の失敗が、少し、悔しかったらしい。
地下へ降りる階段は、前回と同じ道を使った。壁の、円と三線の印が、青白く、微かに光っている。
「……反応してる」
「板の、近くだからだ」
「気をつけろ。ここから先は、ガルシアの、領域だ」
地下三階を、過ぎ、さらに下へ。
四階。そこに、巨大な、石の扉があった。
高さは、三メートル。表面には、複雑な文様が、びっしりと、刻まれている。中央に、小さな、窪みがあった。
「ここが、供物の間だ」
長老が、杖を握りしめた。
「血を」
「おじいさま」
「わしの、血では、足りん。孫である、おまえも、必要だ」
シルファが、短剣で、指先を、そっと切った。
赤い雫が、窪みに、落ちる。長老も、同じく、血を垂らす。
――ごごご。
扉が、ゆっくりと、内側へ、開き始めた。
向こうから、冷たい空気と、微かな、泣き声が、流れてくる。
「……いる」
シルファが、息を詰めた。
「十二人。全員、生きてる。でも、弱ってる」
「行こう」
扉の向こうは、円形の、広い空間だった。
中央に、石の祭壇。周囲に、十二の鉄の檻。
そして、檻の中に、エルフたちが、いた。
痩せた老人、傷ついた青年、小さな子供を抱く、女性。誰もが、虚ろな目で、こちらを、見ていた。
「……誰か、来た」
一人の青年が、かすれた声で、呟いた。
「シルファ、様?」
「そう。私よ」
シルファが、駆け寄った。
「みんな。もう、大丈夫。助けに、来た」
檻の、あちこちから、すすり泣きが、漏れた。
「シルファ様……!」
「長老様まで……!」
俺は、ボルトカッターで、檻の錠を、次々と、切っていった。
「立てますか。歩けますか」
「は、はい」
「ゆっくりでいい。エマージェンシーブランケットを、巻いてください」
『エマージェンシーブランケット×12 銅貨 12 枚』
十二人分を、一度に、購入した。銀色の紙が、足元に、ざあっと、積まれる。
シルファが、一人ずつ、手を取って、立たせた。
「大丈夫。大丈夫よ」
その優しい声に、俺は、胸が、熱くなった。
だが、その時。
祭壇の奥から、冷たい拍手が、聞こえた。
ぱち、ぱち、ぱち。
「実に、美しい光景だ」
闇の中から、黒い外套の男が、ゆっくりと、歩み出た。
右の頬に、深い傷。胸元の、円と三線の、ペンダント。
「ヴェイル」
「久しぶりだな、『持ち主』」
男は、薄く、笑った。
「約束の期限は、まだ、先のはずだが。……随分と、気が早い」
「約束なんて、守る気は、なかっただろう」
「ふふ。察しが、いいな」
ヴェイルの背後に、八人の青印の戦闘員が、音もなく、整列した。
シルファが、弓を構える。ローデンが、剣を抜く。
「ここで、決着か」
「そうなるな」
ヴェイルが、懐から、小さな笛を、取り出した。
「だが、その前に、一つ、見せておこう。板の、真の姿の、一端を」
笛が、鳴った。
祭壇の中央が、青白く、輝き始めた。




