第26話 後編 地下道の再会
地下道は、黴と古い蝋の匂いがした。
先頭は、シルファ。ヘッドライトの光の中を、足音を殺して進む。
「この先、人が一人。呼吸が、落ち着いてる。見張りじゃない」
「ローデンか」
「たぶん。縛られてはいない」
突き当たりの鉄扉の向こうに、小さな部屋があった。壁際の寝台に、ローデンが、腕を組んで座っていた。
「……来ると思っていた」
「どうして、わかった」
「教会の地下道を知っているのは、俺と、老司書と、聖典を読み込んだ変わり者だけだ」
彼は、苦笑して立ち上がった。
「拘束と言っても、軟禁だ。ガルシアは、俺を殺せない。隊の半分が、俺に付いているからな」
「内通者に、心当たりは」
「ある」
ローデンの顔が、曇った。
「副官のマルクだ。三日前から、ガルシアの執務室に、出入りしていた。俺の隊の、情報は、すべて、あいつを通して、漏れた」
「証拠は」
「ない。ただ、俺の勘だ」
シルファが、静かに言った。
「この人、本当のことを言ってる。でも、少し、迷ってる」
「迷う?」
「その副官を、疑いたくないのね」
ローデンは、短く息を吐いた。
「……五年来の部下だ。俺が隊長になる前からの、友人でもある」
「なら、確かめよう」
俺は、板を開いた。
『ボイスレコーダー(小型) 銅貨 3 枚』
『小型マイク(集音) 銅貨 2 枚』
電源は、太陽光バッテリーで、足りる。
「これを、副官が出入りする部屋に仕掛ける。会話を、記録する」
「それは、何だ」
「声を、保存する道具だ。後で、聞き返せる」
「……魔道具か」
「そんなところだ」
ローデンは、しばらく、黙って、小さな機械を見つめた。
「頼む。確かめさせてくれ」
その夜、セレスとティオが、ガルシアの執務室の隣室に、忍び込んだ。小さな機械を、燭台の裏に、貼り付ける。
翌朝、回収した記録を、全員で聞いた。
ざらついた音の向こうから、二つの声が、流れた。
『計画は、順調か、マルク』
『はい、司祭長様。ローデンの、牢の件は、すべて、お伝えしました』
『よろしい。満月の夜まで、エルフの老人を、確実に、確保しておけ』
『ご心配なく。ローデン殿は、もう、手出しできません』
ローデンの拳が、膝の上で、白くなった。
「……そうか」
「ローデン」
「大丈夫だ。覚悟は、していた」
彼は、静かに、立ち上がった。
「マルクの件は、俺が、始末をつける。だが、これで、ガルシアを、告発する材料が、揃った」
「告発できるのか」
「教会内の査問会に、提出できる。ただし、成立するのは、儀式の後だ。それでは、遅い」
「だから、儀式の前に、長老を救う」
「ああ」
シルファが、小さく、俺の袖を引いた。
「ねえ、レイジ」
「ん?」
「あの機械、すごかった」
「だろ」
「でも、あなたが、一番すごい」
唐突な言葉に、思わず、固まった。
「どうした、急に」
「何でもない。ただ、言いたかっただけ」
彼女は、そっぽを向いて、耳の先を、そっと、赤く染めた。
板が、懐で、柔らかく光った。
『お客様の評価:★ 5.0』
『よい仲間に、恵まれました』




