第27話 前編 決行前夜
満月まで、あと十一日。
ホルストの塔の最上階に、全員が集まっていた。円形の机の中央に、旧礼拝堂から地下牢までの見取り図が広げられている。
「確認する」
ローデンが、剣の鞘で、地図の一点を叩いた。
「交代は、深夜零時。ガルシア直属の騎士六人が、牢の前に立つ。二人は、交代のために、一階へ上がる。その瞬間、牢の前は、四人になる」
「四人か」
「そのうち二人は、マルクの息がかかった者だ。残る二人は、まだ、迷っている」
セレスが、羊皮紙に、細かく書き込んでいく。
「迷っている二人は、説得できますか」
「俺が行けば、あるいは。ただ、失敗すれば、騒ぎになる」
「ならば、騒ぎを、起こさない方法を取りましょう」
視線が、俺に集まった。
「……眠らせる、か」
「できますか」
「睡眠薬は、まだ、解放されてない。でも、似たことなら、できる」
板を開き、『日用品』の奥から、ひとつの商品を選んだ。
『アロマディフューザー 電池式 銅貨 3 枚』
『ラベンダーオイル 大容量 銅貨 2 枚』
「これは」
「香りの道具だ。ラベンダーには、気持ちを落ち着かせる作用がある。眠らせるほどの力はない。ただ、疲れた人間には、よく効く」
「疲れた?」
「深夜の交代前だ。四人とも、長時間の立ち番で、疲れ切っている。そこに、濃い香りを漂わせれば、判断が鈍って、まぶたが、重くなる」
シルファが、鼻をひくつかせた。
「確かに、いい匂い。……でも、私には、ちょっと、強すぎるかも」
「君は、風上に立ってくれ。マスクも使う」
ローデンが、半信半疑で、腕を組んだ。
「効かなかったら」
「そのときは、正面突破だ。道具は、他にもある」
『催涙スプレー』『ライト』『ブザー』『ホイッスル』。万が一の備えも、全員分、用意した。
「それと、ティオ君」
「は、はい」
「君には、一番大事な役を、頼みたい」
少年が、ぴんと背筋を伸ばした。
「脱出路の見張りだ。もし、誰かが来たら、このホイッスルを、短く三回。三回だ」
「分かりました」
「怖くなったら、すぐに、逃げていい」
「……逃げません。僕も、シルファ姉さんの、里の、人間ですから」
その言葉に、シルファの目が、少し潤んだ。
「ありがとう、ティオ」
「えへへ」
窓の外は、雪が止み、雲の切れ間から、ほぼ丸い月が、顔を覗かせていた。




