第25話 前編 作戦会議
旧礼拝堂の裏手に、ローデンの隊が使う、古い詰所があった。
窓は塞がれ、扉は二重。教会内でも、ほとんど存在を忘れられた建物らしい。
暖炉に火を入れて、全員で、卓を囲んだ。ティオは、ココアを両手で握り、うとうとしている。
「満月まで、あと十六日」
セレスが、羊皮紙に、地図を広げた。
「地下大聖堂跡は、旧礼拝堂の、さらに下層です。地下牢は、三階層目の、北側。大聖堂は、四階層目の、中央」
「牢と大聖堂は、近いのか」
「階段で、二つ上り下りする距離です。ただし、儀式の最中は、大聖堂の周囲を、聖騎士と青印が固めます」
ローデンが、地図の一点を、指でなぞった。
「俺の隊が、牢の見張りを担当できるのは、儀式の開始から、一時間だけだ。その間に、長老を連れ出す」
「一時間。短いな」
「ガルシアは、儀式の開始と同時に、牢の見張りを、俺の隊から外して、自分の直属に替える予定だ」
「つまり、その前に」
「ああ。儀式が始まる前の夜に、動く」
セレスが、頷いた。
「時刻は、決行の夜、日付が変わる直前。警備の交代の、わずかな隙を、突きます」
「俺たちは、どう動く」
「レイジ様は、牢の外側の警戒を。ローデン殿が、牢の鍵を開ける。長老の保護は、シルファさんが」
「私?」
「里の人間として、最も、安心される方ですから」
シルファは、少し緊張した面持ちで、頷いた。
「……うん。やる」
「ティオ君は、私と一緒に、脱出路の確保を」
「はい!」
目を覚ましたティオが、ぴしっと背筋を伸ばした。
「それと、レイジ様」
セレスが、視線を、俺に向けた。
「脱出後、長老様の身柄を、どこへ隠しますか」
「白樺屋は、もう使えない。ミーナの紹介状を使って、ギルドの、ガレンハルト支部に」
「ガレンハルトのギルドも、灰青商会の影響下にあるかもしれません」
「なら、オルガさんの知り合いだった、マレンの縁を、頼ってみる。何か、残っているかもしれない」
「マレンの、縁」
「日記に、書いてあった」
懐から、革のノートを取り出し、栞を挟んだ頁を開く。
『もし、北の街で、困ったときは、星見の塔を訪ねなさい。あそこの老人は、私の、数少ない友人です』
「星見の塔?」
ローデンが、首を傾げた。
「城壁の北端にある、古い天文台だ。今は、ほとんど使われていない。老人が、一人で、管理している」
「そこへ、行ってみよう」
「危険はないのか」
「わからない。ただ、日記を信じる」
シルファが、じっと、俺を見た。
「あなたは、マレンさんを、信じてるのね」
「会ったことはない。ただ、同じ、板を拾った人だ」
「……そう」
彼女は、小さく微笑んだ。




