第24話 後編 開かずの壁
青白い光に導かれて、俺たちは、地図にない横道へ入った。
道幅は狭く、頭を下げないと通れない。数十メートルで、行き止まりの石壁に突き当たった。
壁面には、円の中に三本の線が交わる印が、浅く彫られている。
「……ここね」
「鈴を、近づけてみる」
銀の鈴を、印の真ん中に押し当てた。
りぃぃん。
澄んだ音が、水路に響いた。
石壁が、ごりごりと、重い音を立てて、横へスライドしていく。
「すごい……」
「仕掛け扉、ですね。構造が、祠のものと、同じです」
セレスが、感嘆の声を漏らした。
壁の向こうには、小さな石室があった。古い燭台と、朽ちた長椅子。そして、床の中央に、地上へ続く螺旋階段。
「旧礼拝堂の、真下かしら」
「たぶんな。慎重に、上がろう」
石段を登りきると、頭上に、木の蓋があった。
そっと押し上げる。
――目の前に、剣の切っ先があった。
「動くな」
低い、しかし落ち着いた男の声だった。
蓋の隙間から、ヘッドライトの光が、相手の顔を照らす。
二十代後半の、短く刈った金髪の男。白い軽鎧に、教会の紋章。聖騎士だ。
「……やっぱり、来たか」
男は、剣を下ろさず、ゆっくり言った。
「黒い板の持ち主と、その仲間だな。人数は四。エルフが一人、子供が一人、眼鏡の女」
「どうして、わかる」
「老司書から、連絡があった。『今夜、客が来る』と」
シルファが、弓を引き絞りかけた。俺は、手で制した。
「あなたは、敵ですか」
「それを、確かめるために、剣を向けている」
男は、じっと俺の目を見た。
「名乗ろう。聖騎士団第三小隊長、ローデン。……司祭長ガルシアの命令には、従っていない」
「従っていない?」
「あの人は、板を、聖遺物として守ろうとしているのでは、ない。私物化しようとしている。その過程で、青印という、人を売る連中と、手を組んだ」
ローデンの顔が、苦く歪んだ。
「私の部下も、半分は、そのことに、気づいていない。残りの半分は、気づいていて、黙っている。……俺は、黙っていられなかった」
剣が、静かに下ろされた。
「頼みがある。老エルフを、救ってほしい」
「それは、こちらの、目的でもある」
「知っている。だから、協力させてくれ。満月の夜、地下牢の警備を、俺の隊が受け持つ」
セレスが、一歩、前に出た。
「条件は、何でしょう」
「条件はない」
「それは、信用できません」
「そうだろうな」
ローデンは、苦笑した。
「では、一つだけ。……ガルシアの、野望を、止めてくれ。板を、あの人の手に渡さないでくれ。教会が、完全に、腐る前に」
その目に、嘘は、見えなかった。
営業の勘が、静かに、告げていた。この男は、信じていい。
「わかりました。協力しましょう」
「ありがたい」
「ただし、俺からも、一つ」
「何だ」
「仲間に、手荒なことは、しないでください」
「約束する」
差し出された手を、握った。分厚くて、豆だらけの、剣士の手だった。
シルファが、小声で、耳打ちした。
「……ねえ。あの人、嘘をついてない」
「わかるのか」
「心臓の音が、一定だもの」
「便利だな、君の耳は」
「でしょ」
得意げな彼女に、思わず笑ってしまった。
板が、胸で、小さく光った。
『お客様の評価:★ 5.0』
『協力者を得ました』
『評価が、上限に達しました。以後、カテゴリーの解放は、鍵の登録によって、行われます』
★五つ。画面の隅で、小さな星が、きらりと瞬いた。




