第24話 前編 地下水路の鈴
白樺屋の地下室は、ワイン樽と織物の梱包材で埋まっていた。
壁の一角にある石の蓋を、ベルトランが三人がかりで持ち上げる。下から、冷たく湿った空気が吹き上がってきた。
「この水路は、百年前の下水道です。今は使われていませんが、旧教会区の地下まで続いています」
「ありがとうございます。ミアちゃんは」
「二階の乳母に預けました。あの子には、客は朝に発った、とだけ伝えます」
ベルトランは、俺の手を両手で握った。
「どうか、ご無事で」
「必ず、また来ます。その時は、ミアちゃんにココアを持ってきます」
「……楽しみにしております」
梯子を降りると、足首まで水に浸かった。
『長靴(防水・膝丈) 銅貨 3 枚×4』
出発前に買っておいてよかった。ティオの分は小さめを選び、全員のヘッドライトを点ける。白い光が、苔むした円形の天井を照らし出した。
「うえ、ぬるぬるする」
「ティオ、壁には触らないで。何がいるかわからないわ」
シルファは、弓を肩にかけ、先頭に立った。耳が、水音の中の異音を、絶えず拾っている。
「この先、百メートルは何もいない。ただ、少し先に、足音。たぶん、上の通りの、兵士ね」
「地上は、もう囲まれてるか」
「ええ。でも、ここまでは来られないと思う」
セレスが、手帳を水濡れから守るため、防水ケースに入れて抱えていた。
「水路の構造図は、ベルトランさんから写しを頂きました。三つ目の分岐を、右。その後、五百メートル先に、旧礼拝堂への、点検口があるはずです」
「頼もしいな」
「ふふ。仕事ですから」
水の音と、四人分の足音。
十分ほど進んだところで、ティオが、足を止めた。
「あれ……何か、聞こえませんか」
「鈴の音?」
懐の銀の鈴が、誰も触れていないのに、りん、と微かに鳴っていた。
板が、胸の中で、脈打っている。
『こちらです』
画面に、短い一文。同時に、右の分岐の壁が、ぼんやりと青白く光った。
「……導いてるの?」
「そうらしい。行ってみよう」




