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第21話 後編 凍える荷馬車

峠の中腹で、俺たちは、立ち往生している荷馬車に、出くわした。


道が、雪で、ふさがれている。車輪が、深い吹き溜まりに、埋まっていた。


「助けてくれ!」


荷台のそばで、中年の男が、必死に、手を振っていた。


「娘が、熱を出してるんだ! このままじゃ、夜を越せねえ!」


「落ち着いてください。状況を教えてください」


「俺は、北方の行商人だ。娘を連れて、ガレンハルトの親戚を頼る途中だった。だが、雪で、動けなくなって、もう丸一日だ」


荷台を覗くと、毛布に包まれた、七、八歳の少女が、ぐったりと横たわっていた。唇は紫がかり、息が浅い。


シルファが、そっと、少女の額に手を当てた。


「熱は、高いけど、これは、低体温が先ね。体が、冷えきってる」


「どうすればいい」


「温めるの。内側と、外側から」


俺は、すぐに、動いた。


『エマージェンシーブランケット 銅貨 1 枚』

『使い捨てカイロ 10個入り 銅貨 2 枚』

『保温ボトル(ココア入り) 銅貨 2 枚』

『ガスコンロ+鍋』


荷台に、簡易の風よけを張って、カイロを、少女の脇と足の裏に、貼る。ブランケットで、体を包んだ。


「飲めるか」


少女は、薄く目を開けて、小さく頷いた。ココアを、スプーンで、少しずつ、口に運ぶ。


「あまい……」


「そうだ。ゆっくり、飲め」


しばらくして、少女の頬に、わずかに色が戻った。


「パパ……」


「ああ、ミア。目を、覚ましたか」


男は、膝をついて、顔を覆った。


「ありがとうございます。ありがとうございます。何と、お礼を」


「お礼は、いいんです。それより、馬車を、掘り出しましょう」


『スノーショベル 銅貨 3 枚×3』


四人と、男で、雪をかいた。ティオが、小さな体で、必死にスコップを動かす。シルファは、軽々と、雪の塊を投げ飛ばしていた。


一時間ほどで、車輪が、自由になった。


「これで、動ける」


「あなた方は、神の、使いだ」


男は、涙を拭いて、名乗った。


「私は、ベルトランと申します。ガレンハルトでは、少しばかり、商いをしております。……『白樺屋』という、小さな織物商です」


「白樺屋?」


セレスが、ぴくりと反応した。


「ガレンハルトの、老舗の織物商では。確か、先代が、教会の、御用達を」


「は、はい。いまは、私が、細々と」


ベルトランは、深く頭を下げた。


「どうか、私の屋敷に、お泊まりください。城門も、私の名なら、通れます。灰青商会の目も、白樺屋の荷に紛れれば、避けられるはず」


「俺たちが、探されていると、ご存じなのですか」


「峠の下で、噂を、聞きました。『黒い板の男』を、探していると」


男は、娘の頭を、優しく撫でた。


「ですが、恩人を、売る真似は、いたしません」


俺は、シルファと、セレスと、顔を見合わせた。


「……ありがたく、お世話になります」


その夜、峠の山小屋で、ベルトラン親子と、一緒に、野営した。ミアは、ティオに、すっかり懐いて、膝の上で、絵本を読んでもらっていた。


「ティオ、お兄ちゃん、やさしい」


「そ、そうかな」


耳まで赤くなる少年を、シルファが、微笑ましそうに見ていた。


窓の外では、雪が、静かに降り続けている。


板が、懐で、ひそやかに光った。


『お客様の評価:★ 4.9』

『小さな命を、救いました』


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