第20話 前編 東の林の影
黒い影が、林の間から次々と飛び出してきた。
「全員、起きろ! 敵襲だ!」
テントの中から、ティオとセレスが転がり出る。俺は焚き火に水を浴びせ、闇を濃くした。火が見えると、こちらの位置が丸わかりになる。
「数は?」
「十二。半分は弓を持ってる」
シルファが、低く伏せたまま答えた。耳が、小刻みに動いている。
「正面から来るのは四人だけ。残りは、左右に広がってるわ」
「囲む気か」
「ええ。馬の音もある。逃げ道を、塞ぐつもりよ」
セレスが、眼鏡を押し上げた。声は冷静だが、指先が白い。
「私は、どうすれば」
「ティオ君と一緒に、荷馬車の下へ。合図があるまで、出ないでください」
「承知しました」
二人が、荷馬車の影へ滑り込む。
俺は、板を開いた。残高は十分ある。今回は、迷わなかった。
『防犯ブザー 大音量 銅貨 1 枚』
『発炎筒(車載用) 銅貨 2 枚』
『ホイッスル 銅貨 1 枚』
発炎筒を三本、ブザーを二個、ホイッスルを四つ。足元に、ごとごとと落ちた。
「ブザー?」
「見てろ。まず、あいつらの足を止める」
ブザーのピンを抜き、茂みの方向へ放り投げた。
ピイイイイイイイッ!
耳をつんざく電子音が、夜の林に炸裂した。
「うわっ!?」「何だ、この音は!」
怒号が、右手の闇から上がった。距離は、二十メートルほど。突っ込んできた足が、一斉に乱れる。
「シルファ、耳は!」
「大丈夫。ちゃんと、塞いでる」
彼女は、指で耳の付け根を押さえて、片目をつむった。
「でも、ちょっと、痛いかも」
「悪い。すぐ、終わらせる」
もう一つのブザーを、反対側の林へ投げる。左右の連中も、動きが止まった。音が、どこから聞こえるのか、わからなくなっているのだ。
「今だ」
発炎筒の先を擦り、赤い炎が噴き上がった。
闇夜が、血のような光に染まる。
「ひっ!」「火だ! 魔法使いがいるぞ!」
三本を、扇形に投げた。赤い光が、林の入口で燃え続け、連中の影を、くっきりと浮かび上がらせる。
「見える。……全部、見える」
シルファの目が、鋭く光った。
弦の音が、三度、続けて鳴った。
三人の男が、膝や肩を押さえて、倒れた。




