↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/52

第18話 前編 持ち帰った鍵

祠から出たのは、夕暮れだった。


追撃は、なかった。


ヴェイルが残した紙を、拾い上げる。そこには、地図と、短い文章が記されていた。


『北方都市ガレンハルト 地下大聖堂跡 一か月後の満月』


「……満月まで、あと二十八日」


「間に合うわ」


シルファは、唇を結んで、紙を睨んでいた。


「ねえ、レイジ。さっきの、あの人の言葉」


「『板に殺された』か」


「あれは、本当だと思う?」


「わからない」


正直に答えた。


「ただ、嘘とも、言い切れない。マレンの日記を、読む必要がある」


「うん」


ティオを連れて、里の跡の、彼の隠れ家へ戻った。地下の、小さな部屋だ。三年間、少年は、ここで、息を潜めていたのだ。


床の隅に、何冊かの、擦り切れた本と、干した木の実が置かれていた。


「ここで、一人で、頑張ってたのね」


シルファが、ティオの頭を、そっと抱き寄せる。


「……もう、一人じゃないよ」


「はい」


少年が、小さく、頷いた。


「一緒に、街へ来る?」


「いいんですか」


「ええ。私たちの、家に」


「ありがとうございます、シルファ様」


「様、はやめて。『姉さん』でいいわ」


「……はい、姉さん」


照れくさそうに言う少年と、それを見つめて、微笑むシルファ。その横顔は、昨日より、少しだけ、強く見えた。




夜。


焚き火の前で、三人分のレトルトカレーを温めた。ティオは、一口食べて、目を、これ以上ないほど見開いた。


「……!」


「どうだ」


「な、何ですか、これ。魔法ですか」


「いや、ただの、俺の故郷の料理だ」


「おいしい。おいしいです。……母さんの、シチューの次くらいに」


「それは、光栄だ」


少年の目に、涙が滲んでいた。何も言わず、おかわりをよそった。


食事のあと、ティオは、シルファの膝で、すうすうと眠りについた。


火のはぜる音。


そして、俺は、懐から、革張りのノートを取り出した。


『この板を拾った、次の誰かへ』


一頁目を、めくる。


そこには、日本語の、流麗な文字が、並んでいた。


『はじめまして。私は、マレン。この世界での、名前です。

本当の名前は、書きません。それは、もう、必要のないものだから。


あなたが、この板を、拾ったとき、きっと、驚いたことでしょう。

私も、そうでした。


でも、これだけは、覚えていてください。

この板は、道具ではありません。

この板は、誰かの、願いです』


「……願い」


二頁目以降は、ところどころ、インクが滲んでいて、読みにくい。


だが、中ほどの頁に、はっきりと、読める一文があった。


『鍵は、全部で、三つ。

一つ目は、泉の祠。

二つ目は、北の聖堂。

三つ目は、――』


そこで、文字が、途切れていた。


頁が、破り取られた痕跡があった。


「……誰かが、破った」


指で、断面をなぞる。紙は、まだ、新しかった。


マレンの死後に、誰かが、この日記から、頁を、持ち去ったのだ。


(オルガさんが、渡してくれるまで、日記は、あの家のどこかに、あったはず)


となると、犯人は、あの家に、入れた人物。


脳裏に、ひとつの可能性が、よぎった。


家の周囲を、嗅ぎ回っていた、黒い外套の男。


あるいは。


「……考えすぎか」


首を振って、ノートを閉じた。


板が、胸元で、静かに、光っていた。


『お客様の評価:★ 4.6』

『古き鍵を、ご登録しますか?』


「登録?」


『登録すると、特別カテゴリーが、一部、解放されます』


画面の「はい」を、指先で触れた。


次の瞬間、鍵が、淡く光って、板の中へ、吸い込まれていった。


『第一の鍵を、登録しました』

『新しいカテゴリー「家電」が、ご利用いただけるようになりました』


「家電……!」


声が、勝手に、弾んだ。


「電気が、使えるのか」


『電源設備のご登録が、必要です。第二の鍵の解放により、発電機が、ご利用可能となります』


「……なるほど。そう来るか」


シルファが、膝の上のティオを、起こさないように、小声で言った。


「何が、解放されたの?」


「次の、冒険の、準備だ」


笑ってみせると、彼女も、静かに、微笑んだ。


焚き火が、ぱちりと、弾けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。