↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/52

第17話 後編 守り手と、傷の男

足元の水が、ゆっくりと、渦を巻き始めた。


石室の四隅から、水の柱が、立ち上がる。


それは、人の形を取り、やがて、半透明の、巨大な戦士となった。


『鍵の守り手。試練を、課す』


声が、頭の中に、響く。


「戦うの?」


「たぶん、そうだ」


水の戦士が、片腕を振り上げた。


水が、鞭のようにしなって、床を叩く。石畳が、えぐれて、水しぶきが、ライトの光の中で、きらきらと輝いた。


「うわっ!」


俺は、ティオを抱えて、転がった。


「当たったら、骨が折れるわ!」


「見ればわかる!」


シルファが、矢を放つ。


だが、矢は、水の体を貫通して、向こうの壁に、突き刺さるだけだった。


「効かない!」


「水だからか」


剣で斬っても、同じだろう。


(水。……水の弱点は)


営業時代、設備会社の担当をしていた頃を、思い出した。


水は、状態が変われば、性質が、まったく変わる。


「シルファ、時間を稼げるか」


「どれくらい」


「一分」


「……任せて」


彼女は、床の水を蹴って、守り手の注意を引いた。ひらり、ひらりと、攻撃を避けながら、矢を撃ち続ける。


俺は、板を取り出した。


『日用品』ではない。『アウトドア』のコーナーの、奥。


『携帯用冷却スプレー(急速冷却) 銅貨 3 枚』

『ドライアイス 5kg 銅貨 4 枚』

『保冷剤 大型×10 銅貨 2 枚』


迷わず、ドライアイスと冷却スプレーを、全部、購入した。


足元に、発泡の箱が、ごとりと現れる。


「ティオ君、手伝ってくれ。この箱の中身を、水の足元へ、できるだけ、撒いてほしい」


「これは、何ですか」


「素手で触るな。凍傷になる。この棒で、すくうんだ」


「は、はい」


濃い白煙が、石室に、広がった。


「な、何、これ」


「氷の仲間だ。水を、凍らせる」


ティオが、必死に、箱から塊を撒いていく。冷却スプレーを、守り手の足元に、集中して吹きつけた。


水の戦士の動きが、わずかに、鈍った。


「……効いてる」


「シルファ! 足を、狙って!」


「分かった」


弦の鳴る音とともに、矢が、守り手の膝に、突き刺さった。


水の巨体が、ぎしり、と音を立てて、固まり始める。


凍った。


『……見事』


守り手の動きが、止まった。


氷の像となった戦士の胸が、ぱりん、と砕けて、中から、淡い金色の光が溢れる。


その中心に、一本の鍵が、浮かんでいた。


古びた銀色の、柄に円の紋様が刻まれた、小さな鍵だった。


『古き鍵。持ち主へ』


石碑の文字が、静かに、告げた。


『この鍵は、扉を開く。だが、扉の先で、選ぶのは、汝だ』


鍵が、ふわりと宙を舞って、俺の手のひらに、落ちた。


ひんやりとした、金属の重み。


同時に、板が、ひときわ強く、光った。


『第一の鍵を、確認しました』

『お客様の評価:★ 4.6』


「やった……」


シルファが、膝から崩れ落ちた。


「疲れた」


「お疲れさま。……君のおかげだ」


「あなたの、ドライアイスのおかげよ」


「ふふ。氷の魔法だって、思われるかもな」


ティオが、鍵を見つめて、目を輝かせている。


「すごい。シルファ様も、レイジさんも」


「君も、よく頑張った」


少年の頭を、撫でた。ティオは、照れて、耳を伏せた。


その時、通路の奥から、拍手が、聞こえた。


ぱち、ぱち、ぱち。


「実に、見事だ」


石室の入口に、あの男が立っていた。


右の頬に、深い傷。黒い外套。胸元の、円と三線の、ペンダント。


廃坑で、闇に消えた男だった。


「また、会えたな。『持ち主』」


「……お前」


「名乗っていなかったな。ヴェイル、と呼ばれている」


男は、笑った。


「第一の鍵を、手に入れたか。上出来だ。私の部下たちは、何日かけても、祠を開けなかったのに」


「里の人たちを、どこへやった」


シルファが、弓を引き絞った。


「落ち着きなさい、森の娘。長老は、無事だ。今のところは」


「今の、ところ?」


「そうだ。『鍵』が、揃えば、返そう。約束する」


ヴェイルは、悠然と、懐から、一枚の紙を取り出した。


「第二の鍵は、北の都市、ガレンハルトの、地下にある。ここへ、鍵を持って、来い。期限は、一か月」


紙が、ひらひらと、床に落ちる。


「断れば?」


「長老の命は、保証しない」


シルファの手が、震えた。


「卑怯者」


「そう呼ばれるのは、慣れている」


ヴェイルは、背を向けた。


「ああ、そうだ。もう一つ」


男は、肩越しに、俺を見た。


「その板の、『前の持ち主』は、私の、旧い知り合いでな。……彼女は、板に、殺されたんだよ」


石室に、冷たい沈黙が、落ちた。


「何?」


「いずれ、分かる。板が、本当は、何者なのかを」


その背中が、闇の中へ、溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。