第15話 前編 東の森からの便り
屋台が軌道に乗ったその週、ミーナが、一通の依頼書を持って、家を訪ねてきた。
「レイジさん。少し、気になる報せが入っています」
「気になる?」
「東の森の入り口で、夜な夜な、青白い光が見える、と。猟師さんたちが、怯えて近寄れないそうです」
「青い光、か」
シルファの手が、ぴたりと止まった。
洗っていたマグから、水が、ぽとりと滴る。
「……シルファ?」
「東の、森」
彼女は、喉の奥から、絞り出すように言った。
「それは、私の、里の、近く」
居間の空気が、静まった。
セレスが、いつの間にか、扉の脇に、立っていた。
「失礼します。立ち聞きの意図は、ありません。ただ、お知らせしたいことが」
彼女は、布に包んだ金属板を、取り出した。
「地下で見つけた、あの板。解読が、進みました。この一節です」
テーブルに置かれた金属板の端の、小さな刻印を、細い指でなぞる。
「『東の泉の祠に、第一の鍵は、眠る』」
「東の、泉」
「はい。『泉の祠』という名前の遺跡が、東の森の奥に、存在するはずです」
シルファが、顔を上げた。
「……ある。里の、聖地。長老だけが、入ることを許された、場所」
「やっぱり」
「でも、あそこには、何も、ないと、思ってた。ただの、古い石の祠だと」
セレスが、静かに頷いた。
「おそらく、長い年月の間に、里の人々は、その意味を、忘れたのでしょう」
「青い光は?」
「祠に、何かが、反応している。……あるいは、誰かが、祠を、探している」
その言葉に、俺は、はっとした。
青印の連中が、里を襲った理由。
シルファを、囮として捕らえた理由。
「……祠を、探すため、か」
「その可能性が、高いです」
シルファの顔が、青ざめた。
「里を襲ったのは、祠の鍵を、探すため。私の祖父が、拒んだから。……みんなを、連れ去った」
「…………」
「じゃあ、里の人たちは、まだ、生きてる。きっと」
声が、震えている。それでも、光が灯っていた。
「レイジ」
「ああ」
「行こう。東の森へ」
「当たり前だ。ただし、準備は、きちんとする」
シルファが、強く頷いた。
ミーナが、そっと、書類を差し出した。
「ギルドとして、正式な調査依頼に、します。報酬は、後でお話しします。ただ」
彼女は、少し、唇を噛んだ。
「どうか、無理だけは、しないでください」
「約束する」
その時、板が、ふわりと、光を放った。
『東の森までの、お届け可能範囲が、拡大されました』
「拡大?」
『ご注意:遺物に近づくほど、お届け範囲は、広がります』
画面の下に、小さな文字が、追加されていた。
『第一の鍵は、すぐ近くで、待っています』




