第14話 前編 公開の試飲会
ガズの証言は、その日のうちに、ギルドと衛兵に伝わった。
「ドルトン理事の指示、と本人は言っています。ただし、証拠は、本人の証言だけです」
ミーナが、報告書を広げながら言った。
「商人組合の理事ですから、衛兵も、簡単には動けません」
「でしょうね」
「ですが、一つ、手があります」
静かに口を開いたのは、セレスだった。
居間のテーブルに、灰色の服で、背筋を伸ばして座っている。
「公開の試飲会を、開くのです」
「試飲会?」
「ええ。診療所の医師、薬師組合の代表、衛兵、ギルド職員。複数の立会人の前で、この店の商品を、無償で提供する。そして、その場で、全員の体調を確認する」
「毒が入っていない、と証明するわけか」
「はい。それだけでなく、噂を広めた側の、不自然さも、浮き彫りになります」
セレスは、眼鏡を押し上げた。
「噂は、広がる速度が速いほど、否定されたときの反動が、大きい。ドルトン様は、焦って、動きすぎました」
「……さすがだな」
「恐れ入ります」
彼女が、静かに笑った。その横で、シルファが、無言で紅茶をすすっている。
「シルファ。何か、意見は?」
「別に。いい案だと思う」
「ほんとか」
「ほんとよ。ただ」
彼女は、ちらりとセレスを見た。
「あなた、全部、先読みしてるのね」
「それが、私の役目ですので」
「……ずるい人」
「光栄です」
セレスの口元が、ほんの少し、緩んだ。
(この二人、仲が悪いわけじゃ、ないんだよな)
少なくとも、そう信じたかった。
試飲会は、三日後の朝、ギルドの前庭で開かれた。
診療所の老医師、薬師組合の初老の女性、衛兵の副隊長、ギルド長のブラム。立会人が、半円に並んでいる。
「これより、『マレンの茶屋』の商品の、安全確認を行います」
ミーナが、進行役を務めた。
「材料を、全て、ここでお見せします」
俺は、紅茶のティーバッグ、ココア粉末、スティックシュガーを、並べて見せた。外袋に印字された、日本語は、事前に切り落としてある。
「この茶葉は、遠方の友人から、定期的に仕入れているものです。製法は、お話しできません」
「ふむ」
老医師が、茶葉をつまみ、匂いを嗅いだ。
「……上等の、紅茶だな。毒の気配は、ない」
「砂糖は、どうかね」
薬師組合の女性が、スティックの中身を舐めた。
「…………驚いた。不純物が、ほとんどない。王都の、上質な白砂糖よりも、きれいだ」
会場が、ざわついた。
「では、実際に、淹れます」
シルファが、小鍋で湯を沸かし、ダインとリゼが、マグを並べる。
立会人全員の前で、同じ鍋から、同じ湯を注ぎ、全員が、一緒に口をつけた。
「…………」
「…………」
しばらくして、老医師が、満足げに息を吐いた。
「問題は、ない。いや、むしろ、疲労回復の効果があるかもしれん」
「毒どころか、薬のようだ」
薬師組合の女性が、頷いた。
「これなら、薬師組合として、安全を保証してもいい。証明書を、書こう」
ブラムが、腕を組んで、にやりと笑った。
「見事だ。……この件で、一番慌てている連中は、今ごろ、顔面蒼白だろうな」
「ドルトン理事は、本日、欠席ですか?」
「ああ。腹痛とのことだ」
どよめきの後、会場に、笑いが広がった。
立会人の署名が入った、安全証明書が、一枚、作られた。
それを手に、ミーナが、誇らしげに言った。
「この証明書は、ギルドの掲示板に、貼り出します!」
「ありがとう、ミーナ」
「いえ! 私が、したかったので」
その後ろで、シルファが、小さく、ため息を吐いていた。




