第13話 前編 鍵の外れる音
朝、黒い板が、いつもより長く光っていた。
『お客様の評価:★ 4.0』
『カテゴリー「工具」が、ご利用いただけるようになりました』
「……来たか」
ホーム画面の灰色だった四角が、色を取り戻している。指で触れると、鍵のマークが、かちりと外れた。
「どうしたの、レイジ。そんな顔して」
シルファが、寝癖のまま居間に出てきた。
「工具が、開いた」
「ほんとう? ……ええと、それは、何ができるようになるの?」
「家が、ちゃんと家になる」
商品の一覧を、順に確かめていく。
『ノコギリ(両刃) 銅貨 2 枚』
『金槌 銅貨 1 枚』
『釘セット 銅貨 1 枚』
『水平器 銅貨 1 枚』
『電動ドリル(コードレス)――ご利用には、電源設備のご登録が必要です』
「電動のほうは、まだ駄目か」
電気が使えなければ、ただの重い箱だ。発電機の類も、『家電』と同じく鍵がかかっている。
「でも、手で使う道具なら、十分だ。屋台を、ちゃんとした店構えにしよう」
「お店?」
「ああ。軒先に、カウンターと屋根を作る」
その日の昼、ダインとリゼが、家の前に集まった。
「雇われた初日から、大工仕事か」
「嫌なら、言ってくれ」
「いや。むしろ」
ダインは、ノコギリを手に取って、刃の面をじっと見つめた。
「……これ、いい鋼だな。目が揃ってる」
「わかるのか」
「親父が、大工だったんだ。冒険者になる前は、俺も手伝ってた」
意外な過去だった。
彼は、柱になる丸太に、墨で線を引き、慣れた手つきで切り始めた。切り口が、きれいに揃っていく。
「すごい。……ダインさんって、本当は、器用な人なんですね」
リゼが、素直に感心している。ダインは、耳まで赤くなった。
「やめてくれ。昔の話だ」
「雇って、正解だったな」
「……ありがたい」
俺は、水平器の使い方を教え、釘の打ち方を確認し、シルファは木材の寸法を測った。彼女の目測は、定規と一ミリも違わない。
「森の民は、弓矢の距離を、毎日測るから」
「便利すぎないか、君」
「ふふん」
夕方には、軒先に、立派な木の骨組みが立っていた。
「明日は、屋根と、カウンターだな」
「うん。……楽しい」
シルファが、金槌を握ったまま、嬉しそうに笑う。
その様子を、通りの向こうの路地から、じっと見つめる視線があった。
絹の上着。太った体。ドルトンだった。
彼は、口の端を歪めて、何かを呟き、すぐに、人混みに紛れて消えた。




