↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/52

第12話 後編 去る者、来る者

衛兵が到着したとき、ボルクは、大剣を鞘から半分、抜きかけていた。


「剣を、収めなさい」


「違う、俺は、ただ」


「公衆の面前での抜刀は、街の条例違反です。詰所まで、同行を」


二人の衛兵に挟まれて、ボルクは、引きずられるように連れていかれた。最後まで、何か、わめいていた。


屋台の前に、静けさが戻る。


「……大丈夫か、シルファ」


「うん」


彼女は、小さく頷いたが、肩が、まだ強張っている。


俺は、黙って、彼女の背中に、手を添えた。


「少し、休もう。今日は、もう、店仕舞いだ」


「でも、まだ、お客さんが」


「大丈夫だ。みんな、待ってくれる」


並んでいた冒険者たちが、一斉に、頷いた。


「ゆっくり、休め、嬢ちゃん」「明日も、並ぶからな」


シルファの目が、ほんの少し、潤んだ。


「……ありがとう、ございます」




屋台を畳んだあと、ダインとリゼが、家の前まで、ついてきた。


「あの」


「どうした」


ダインが、深く頭を下げた。


「ボルクの、あの暴言。……申し訳ない。俺たち、もう、あいつとは、やっていけない」


「パーティーを、抜けるのか」


「ああ。今日の件で、決めた。リゼも、同じだ」


リゼと呼ばれた魔法使いは、疲れた笑みで、頷いた。


「ずっと、迷っていました。レイジさんが追い出された日から。……見て見ぬふりをしたのは、私も、同じです」


「……そうか」


「それで、厚かましいお願いなんですが」


ダインが、顔を上げた。


「俺たちを、雇ってもらえないでしょうか。屋台の荷運びでも、護衛でも、何でもやります」


「雇う?」


「冒険者の稼ぎだけじゃ、食っていけない。でも、お前の屋台は、本物だ。見てて、わかる」


俺は、シルファを見た。


彼女は、少し考えてから、静かに言った。


「……いいと思う。ダインは、前に、レイジに謝りに来たもの」


「リゼさんは?」


「魔法使いは、屋台の火の番に、向いてるわ。……それに」


シルファは、ちらりとリゼを見た。


「あなたは、私の耳のことを、何も言わなかった」


「当たり前です。誰にだって、事情はあります」


リゼの答えに、シルファの表情が、わずかに和らいだ。


「わかった。二人とも、明日から、よろしく頼む」


「ありがとう!」


「必ず、役に立ちます!」


二人が、頭を下げる。


ダインの目から、一筋、涙がこぼれていた。




その夜、家の居間で、俺とシルファは、二人きりで、ココアを飲んでいた。


窓の外では、風が、静かに屋根を撫でている。


「……ねえ、レイジ」


「ん?」


「私の話を、少しだけ、聞いてくれる?」


「ああ。もちろん」


彼女は、マグを両手で包み、しばらく、湯気を見つめていた。


「私は、東の森の里の、長老の孫なの」


「……ああ」


「里は、三年前の冬、襲われたわ。青い印の連中に。私は、その夜、里の外にいて、助かった。でも、仲間のほとんどは、連れ去られた」


声は、静かだった。


「私は、それから、ずっと、探してた。里の人たちを。そして、二か月前に、捕まった。囮にされたのよ」


「囮……?」


「里の人たちが、どこにいるのかを、私が探しに来ることを、あの人たちは、わかっていた。私が現れるのを、待っていたの」


マグを持つ手が、わずかに震えた。


「あなたに会えたのは、本当に、運がよかった」


「運じゃないかもしれない」


「え?」


「あの板が、俺を、あのダンジョンに導いた。もしかしたら、君と、俺を、会わせるためだったのかもしれない」


シルファは、目を丸くして、それから、ふっと、優しく笑った。


「……そうだと、いいな」


「ああ」


「レイジ」


「ん?」


「里の人たちを、探すの、手伝ってくれる?」


「当たり前だ」


即答すると、彼女は、ほっと息を吐いた。


「ありがとう。……大好き」


「えっ」


「あ」


シルファの顔が、真っ赤になった。


「ち、違う、そういう意味じゃなくて、その、人として、仲間として、頼りになるって」


「わかった。わかったから」


「本当に、わかってる?」


「ああ。ちゃんと、わかってる」


わかっていない。多分、自分の顔も、同じくらい赤いだろう。


板が、膝の上で、小さく光った。


『お客様の評価:★ 3.8』

『カテゴリー「工具」の解放まで、あと少しです』


そして、その下に、また、一行だけ。


『絆は、遺物を、育てます』


「……絆、か」


俺は、画面を、そっと撫でた。


シルファが、横で、うとうとと、舟を漕ぎ始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。