↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/52

第6話 前編 酒場のざわめき

拠点を構えて、三日が過ぎた。


家の掃除はほぼ終わり、窓には板で買ったカーテンが掛かった。居間には、折り畳み式の簡易テーブルと椅子。寝室には、二人分の寝袋。まだまだ質素だが、宿よりは、ずっと居心地がよかった。


朝は、ガスコンロで湯を沸かして、インスタントのコーヒーを淹れる。シルファは、最初は苦そうな顔をしていたが、砂糖とミルクを入れると、すっかり気に入ったらしい。


「今日も、ギルド?」


「ああ。ちょっと用事がある」


ギルドの扉を開けると、空気が、昨日までと違っていた。


ざわめきが、一瞬だけ、止まる。


そして、あちこちから、ひそひそと声が上がった。


「あれが、そうだろ」「『光る道具の冒険者』」「たった二人で、ゴブリンの偵察隊を全滅させたって」


どうやら、噂は、思った以上に広まっているらしい。


(営業の鉄則は、目立ちすぎないこと、なんだがな)


受付に向かうと、ミーナが小走りに出てきた。


「レイジさん! 今朝、ギルド長から、お話がありまして」


「ギルド長?」


「Eランク昇格の正式な通知です。それと、もう一つ。依頼が、いくつか、レイジさん宛に指名で入っています」


彼女は、三枚の紙を差し出した。


『商隊護衛(二日間) 報酬:銀貨八枚』

『廃坑内の夜間調査 報酬:銀貨十二枚』

『貴族邸の害虫駆除 報酬:銀貨十五枚』


「指名依頼、か。三つもか」


「はい。どれも、普通なら、Dランク以上の冒険者に回される依頼です。ですが、依頼主が『あの冒険者を』と、ご希望で」


「誰が、俺の名前を出した?」


「商人組合と、街の富裕層の方々です。……噂が、先に走ったみたいで」


ミーナの頬が、少し赤い。


「その、私も、レイジさんの活躍を、ギルドの皆さんに話したのは、否定しません」


「……君か」


「す、すみません。でも、本当のことですから」


苦笑するしかなかった。


そのとき、背後から、地の底を這うような声が降ってきた。


「おい」


振り返ると、ボルクが立っていた。


顔には、数日前より濃い隈ができている。後ろには、ダインと魔法使いの女。三人とも、目が、血走っていた。


「……何か用か」


「お前、何を使った」


「何を、とは」


「とぼけるな! ゴブリンの偵察隊を、一晩で潰せる道具だ! 聞いたぞ、光る道具を持ってるって!」


ギルドの中が、静まり返った。


「それを、俺たちによこせ。『赤牙』の依頼のために、必要なんだ」


「なぜ、俺が渡すと思う?」


「お前は、うちのパーティーの人間だったろうが!」


「三日前に、あんたが追い出した」


淡々と言い返すと、ボルクの顔が、真っ赤になった。


「お前のせいで、俺たちはなあ!」


「落ち着けよ、ボルク」


ダインが、疲れた声で、彼の袖を引いた。


「やめとけ。もう、いいだろ」


「うるせえ!」


怒声とともに、ボルクの拳が、俺に向かって振り上げられた。


だが、拳は、届かなかった。


軽い風切り音。


ボルクの頬の脇を、一本の矢が掠めて、背後の柱に突き刺さった。


「……そこまで」


静かな声だった。


ギルドの入口に、シルファが立っていた。黄色いレインコートの下で、弓を引き絞り、まっすぐにボルクを狙っている。


「次は、外さない」


その声は、いつもより、ずっと冷たかった。


ボルクの喉が、ごくりと鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。