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「で、依頼は何?手短にお願いするわ。」
先程までお茶を飲み、お茶菓子を食べて凪達をフル無視していたセナはどこまでもマイペースに尋ねた。
「依頼は最近活発になっている麻薬の売買についての調査だ。」
セナは凪のことを表面上は悟られないように観察する。顔色や声のトーン、呼吸の速さや回数など観察から得られる情報は無限にある。
(ずっと無表情で呼吸も一定…ま、それもそうか。この程度のことで一々表情に出してたらヤクザの若頭になんてなれないものね。)
セナは少し目を瞑ってからすぐに開けて凪に視線を向ける。
「それはロライの調査ってことかしら?」
「そうだ。」
セナの問に凪は肯定した。セナが最近掴んだ情報の中で麻薬の売買に関するものはロライという集団に関するものだけだ。セナはそれを先程確認していた。
(さて、ロライ程度コイツならすぐに潰せる…それでもわざわざ私に依頼したってことは、顔合わせ以外の目的がある…多分、ロライの背後に気づいてるのね。)
セナと凪は今日がほぼ初対面だ。お互いのことをほぼ知らない。これから仕事で関わることが増えること間違いなしなため、お互いがお互いを信用できるか腹を探っているのだ。裏に生きている以上、探られて痛い腹しかない。セナはさっさとこのやりとりを終わらせるためにも話を進めることにした。
「ロライは表の人間が裏に足を突っ込んで作った集団よ。貴方ならすぐに片付けるなり駒にするなり出来るんじゃないの?」
セナはワザと挑発するような口調で訊いた。凪にこの程度もできないのか、と言外ににおわす。質問の意図に気づいたのか、凪は片眉をピクリと動かす。
「この程度のこと?お前、本気で言っているのか?この程度のことすら分からない奴なのか?」
セナの挑発に凪も挑発で返してきた。セナは凪とのやり取りを楽しむように口角を上げ、さらに挑発しようと口を開ける。
「自分ら仲良くできひんのか…?」
セナと凪の挑発合戦に水を差したのは夏弦だった。その言葉で興が覚めたのか、凪は茶菓子に手をつける。
「はぁ…折角、久しぶりに楽しい話し合いができていたのに。残念ね。」
セナの表情は相変わらず、人間が警戒できない微笑みを浮かべており、何を考えているのかが分からない。一方、セナの返答に夏弦はドン引いていた。
「セナちゃん、それはど「不敬ですよ。愚か者。」」
夏弦がセナに先程の言葉の意味を確かめようとした。しかし、彼の言葉はユウリによって遮られた。
「セナ様に敬語を使わないのは一万歩…いえ、百万歩ほど譲って許しましょう。」
ユウリは一度、言葉を止める。そして、それをルランが引き継ぐ。
「ですが、セナ様を馴れ馴れしく呼ぶことは許せません。」
「いや…翔琉さんかてセナちゃ…はい。セナ様と呼ばせていただきます。」
夏弦がユウリとルランに反論しようとしたが、二人が向けてきた殺気にすぐ白旗を上げた。二人の殺気は表の人間ならばすぐに卒倒するほどのものだったのだ。
「ユウリ、ルラン、今回は静観してって言ったわよね?今は依頼の話をしているからその話は後でゆっくりしてもらえるかしら?」
セナは二人を窘めたが別に止める気はないらしく、後でしろと言った。その言葉に二人は頭を下げる。
「申し訳ございません。命令を守れなかったこと、深く反省しております。今回のような事があった次起こった場合は静かに黙らせます。」
「夏弦さんには分かっていただけたようなので、この場では蒸し返すような真似は絶対にしないとお約束します。」
ユウリとルランは殺気を引っ込めてセナに謝罪する。あまりの変わりように驚いた夏弦は黙って目を瞑った。
「別に、気にしてないからいいわ。はぁ、予定より長引いてるわ。少し急いでもらえるかしら?」
セナの言葉に凪と夏弦は思わず、「お前のせいだ!」とツッコミかけたが、ギリギリで踏み留まった。ツッコんだ時にはまたユウリとルランが殺気立ち、セナが呆れたような溜息をつく光景が容易に想像できたからだ。
「ほら、ロライのこと、貴方は分かってるんでしょう?私、あまり知らないの。教えてもらえる?」
セナは欠片も心にないであろう言葉で凪を煽る。凪はそれをスルーしてロライについて分かっていることを話しだした。




