情報屋は鋼のメンタル
セナ、凪、夏弦の三人は地下通路を移動し、その奥にある部屋の扉を開けた。
「よぉ!」
そこにはソファにふんぞり返り、エナジードリンクを呷っているセイがいた。
一応、この部屋はセナが所有している拠点の一つである。そこで我が物顔で寛げるセイの精神は流石の一言に尽きる。
「「なんでお前がここにいる」おるん?」
警戒するように凪と夏弦から発せられた言葉は見事に被った。
セナは口元を手で隠して肩を震わせているが、セイは腹を抱えて笑っている。
「情報屋を舐めてもらっちゃ困るぜぇ?」
目尻に浮かんだ涙を拭いながらの言葉に説得力はあまりない。
テーブルの上にはエナジードリンクの他に未開封の缶詰や燻製肉が積まれている。
「無断で私の拠点に居座ろうとしたことだけは褒めてあげる。」
「おっ、ついに惚れたか?いやぁ、人気者は辛いねぇ。」
セナはそう言いながらつかつかとテーブルへ歩み寄り、燻製肉を開け、食べ始める。しょっぱかったのか、エナジードリンクで流し込んでいると、凪がセナとセイの間に割り込んだ。
凪はさりげなくセナをセイから遠ざけるように移動させながら自分も燻製肉を食べ始める。
「お前な、どれだけ居座る気だったんだ?」
味が独特な食料に慣れている人間でも燻製肉は塩辛かった。エナジードリンクを飲みはしなかったものの、凪は僅かに顔を歪めた。
「おぉ……凪が、あの鉄壁の無表情の凪の表情筋が生きとった。」
夏弦も驚きながら燻製肉を食べていた。
皆、夕食を摂っていないのだ。セナに至っては昨日から何も口にしていない。
いくら異能者だろうと動けなくなる。
「おーおー、そんなに気に入ったのか?」
「お腹空いてたのよ。味は……この前のカフェオレよりかは美味しいわ。」
「カフェオレ……?そんなまずいのやったんか?」
夏弦の問いにセイが楽しそうに反応した。
「開封してから少し経ったカフェオレだよ。はっきり言ってまずいぜ。あんまお勧めはしねぇな。」
四人の間に微妙な沈黙が訪れた。
その空気を破るようにパンッとセナが手を合わせた。
「さっさと本題に入るわよ。」
場の空気が先程の緩んだものから張り詰めたものに切り替わった。
「で、そいつは今回の件に関係あるのか?」
凪は凍るような視線でセイを指した。
「不法侵入者よ。」
「まぁ、そうだな。否定はしねぇ。」
凪はそれ以上の追及を止め、セイの対面のソファに座った。その隣に夏弦が、セナは一人掛けのソファに腰掛けた。
「セイ、説明お願いね。」
「あ?んだよ。ったく、しょうがねぇな。年長者として折れてやんよ。」
セイは渋々といった表情で口火を切った。
「今回の件、下手すりゃ俺らも仲良く収容所行きだ。よく聞けよ。まず――」
セイが説明を終える頃には部屋の空気は重く、息苦しいものになっていた。
「そうか。お前も収容所関係者だったのか。」
(凪はいろいろ知っているのよね。私に記憶を消されていただけだもの。)
どうしたものかと思案していると、セイがニヤニヤと笑いながら話し始めた。
「収容所についてならこいつが一番詳しいぞ。なんせ痛ぇっ!?」
セナがセイの脛を蹴ったのだ。わざわざソファから立って。
痛みに悶絶しているセイの動作もどこか芝居がかっている。そのせいか、凪と夏弦は深く詮索しない。
どこまで踏み込んでいいのかを弁えているのだ。
「まず、収容所の説明からね。夏弦は一般的に知られている情報しか知らないでしょうし」
この場合の「一般的」とは、裏社会での一般的である。
当然だが、表の社会ではあまり知られていない情報だ。
「収容所が国際異能研究所というのは知っているでしょうから、そこら辺は省くわよ。」
そう前置きしてからセナは説明を始めた。
「まず、収容所は営業、人事、経理、総務、企画・開発の主に五つの部署から成り立っているわ。ここは表の一般的な企業とそう変わりないわね。時間がないから営業部と企画・開発部以外は割愛するわ。この二つ以外、やってることは表とそう変わらないしね。」
セイは説明をセナに任せる気らしく、どこからか取り出した缶切りで缶詰を開けている。
「簡単に説明すると、営業部の役割は異能者の売り込み。各国の権力者や軍隊、資産家などに用済みの実験体や失敗作を紹介し、売り飛ばしているの。企画・開発部は異能者の制作と躾けを中心に行っているわ。何か質問は?」
夏弦が先生に名指しされた生徒のようにピンと手を挙げた。
セナが「どうぞ」と手で示すといつもと変わらぬ態度で質問を口にした。
「なぁ、その失敗作と実験体ってなんなん?それと、異能者の制作って?」
「それについては俺が答えてやろう。」
缶詰めを一つ食べ終えたセイが偉そうに足を組んで反応した。
「失敗作ってのは読んで字のごとく、失敗した人間だ。収容所ではまず、拐われたり売られたりした人間は実験体の識別番号を与えられる。実験を通して異能を覚醒したやつは成功体、覚醒せずにぶっ壊れたやつは失敗作の識別番号に変更されんだよ。失敗作については以上だ。実験体についてもだいたいは理解しただろ?」
セイは「こっからが胸糞悪ぃ話だ」と呟きながら夏弦の反応を楽しそうに視線で舐め回す。
「実験体から成功体、要は異能者にするにはな、俺らが経験したようなのを味わわせる方法と薬とかで無理矢理再現して覚醒させる方法があるんだ。後者については俺もあんま詳しかねぇから説明はしない。」
説明を聞き終えた夏弦の表情に変化は見られなかった。
相変わらずヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべている。
「貴方は間違いなく幸運な異能者よ。異能という呪いを授かりながら、収容所の深い場所まで関わっていないのだから。」
セナはどこか悲しそうに微笑んだ。作ったような笑みにも、本心からのものにも見える笑みだ。
セイも懐かしむように天井を仰いだ。
「さてと、今回の件の計画ですることは大きく分けて三つよ。」
穏やかな微笑みの仮面を付け直したセナは指を三本立てた。
「籠絡、拷問、最後にハイジャックかシージャック。」
セイには通じているが、凪と夏弦はあまりにも端的すぎる説明に続きが語られないかと耳を傾けている。
「今回、一番の問題は最後、シージャックかハイジャックか分からないことよ。シージャックはこの前したばかりだから、できることならハイジャックがいいのだけど……」
「でもよぉ、条件考えるとシージャックのが現実的だぜぇ?」
「そこなのよねぇ……」
セイの発言にセナは額をおさえる。
飛行機よりも船のほうが人間を大量に運べるのだ。輸送費も飛行機より安いため、コストもかからない。
「でも、収容所の技術力なら船を空に浮かばせることくらいできそうなのよ。……あら、ハイジャックできそうね。」
「問題はそこじゃ」
「テテテテテテテン♪ テテテテン♪――」
凪の言葉は電話の着信音にかき消された。
「悪ぃな」とセイがポケットからスマホを取り出し、部屋の隅に移動して電話に出る。相槌を打ちながらも、その表情はどんどん険しいものになっていく。
電話を切り、顔を上げたセイは苦虫を千匹ほど噛み潰したような表情をしていた。
「咲葵が拐われた。」
当初の予定より文字数が増えている……
キャラクターに作者が振り回されているのはなぜでしょうか?
天災令嬢の長編出しました。
URL↓
https://ncode.syosetu.com/n3992mm/




