拒否権は?
短い?です。
「ってことで、さっさと貸を返してくれる?」
「ここは俺の部屋なんだが?」
微妙な沈黙が落ちた。
セナはそんなものどこ吹く風とでも言うようにベッドに腰掛け、運んできた二人の女性を床に転がしている。
「せめて玄関から入ってこい。てか護衛はどうした。一応、うちの敷地の出入り口には見張りがいるはずなんだが。塀の近くを巡回してる組員もいる。」
「さぁ?」
「はぁ……で、何をすればいいんだ?」
凪は思考を切り替えた。セナはのらりくらりと追及をかわし、本当のことを話さないとわかりきっているからだ。
「簡単よ。この二人を月守組で保護して、私の仕事に協力してくれればいいわ。それだけで前回の貸はチャラになるのよ?」
セナは相変わらず穏やかに微笑んでいる。凪も無表情のままだ。
互いに相手を観察し、会話の主導権を握ろうと牽制し合っていた。
「凪〜、青羅さんが夕食できたって……これ、どういう状況なん?」
気の抜けるような関西弁でやって来たのは夏弦だった。
突然の乱入者にセナはニコニコとどこか楽しそうに微笑み、凪はため息をついて眉間を揉んだ。
「俺も訊きたい。」
「貸を返してくれれば何も言わないわ。」
会話が噛み合っているようで噛み合っていない。セナも凪も本心を表に出していないため、当然と言えば当然である。
「ひとまず、仕事だ。夏弦、着替えてこい。」
「人使い荒い主やなぁ。」
夏弦が出ていくと、凪もクローゼットからスーツを取り出し、着替え始めた。
セナは自分が連れてきた女性2人の脈を測ったり、瞳孔を確認したりしている。
(この子たちも恐らくは誘拐されたのね。失敗作だと判断されたから捨て駒にされたってとこか。翔琉さんに持ってけば……)
「凪、この二人は翔琉さんに任せるわね。伝えておいてくれる?」
「了解した。あいつなら収容所絡みなら嬉々として協力すると思うぞ。」
実の父親をあいつ呼ばわりする凪に「仲が良いのね」と苦笑しながらセナは続ける。
「そうでしょうね。何せ幼い凪くんをボッロボロにした組織だものね。」
「お前もだろ?」
ピタリとセナの動きが止まった。
錆びついたブリキ人形のように首を回し、凪の瞳を覗き込む。セナの紫色の瞳は淡く輝いていた。
「《忘れろ》」
「無理な話だ。」
(霊鬼が効いてない……?)
セナは驚きと警戒で数歩後ずさった。
いつも貼り付いている微笑みは消え、無機質な硝子玉のような瞳には一切の光がない。
「そう何度も消せると思わないことだ。」
凪の瞳は桔梗色に染まっていた。
セナは質問には答えず、凪を凝視する。
だが、次の瞬間には穏やかな微笑みを貼り付けていた。
「凪ー、着替えてきたで……あー、俺邪魔やった?」
二人の微妙な空気を感じ取ったのか、夏弦は気まずそうに後頭部をかく。
「いい。場所を移すぞ。」
「了解。翔琉さんと青羅には少し出かける言うてきたかんな。」
「あら、気が利くわね。多分、暫く帰ってこれないから。」
なんてことないように投下されたその発言により、凪と夏弦は数秒間停止した。
脳が理解を拒んでいるのだ。
「どうせ二人とも仕事で学校なんか行かないでしょ?問題ある?」
「セナちゃん?拒否権って知っとる?」
夏弦はそう問いかけてから違和感を感じ、キョロキョロと辺りを見回す。
「ユウリくんとルランちゃんと縁切ったって噂、ほんまやったんやな。」
いつもなら、「セナちゃん」と夏弦が言った瞬間、大の大人でも気絶するような殺気がその場に満ちる。
しかし、ユウリとルランはもうセナのもとにいない。殺気が夏弦に飛ばされることもないのだ。
「なんか調子狂うんよなぁ。」
ぶつくさとそう言う割に、夏弦の表情に変化は見られない。ヘラヘラと軽薄ない笑みを浮かべているだけだ。
「そんなにほしいなら向けてあげましょうか?それと、拒否権なんて私達に存在すると思っているの?」
ほんの一瞬、三人の空気が凍った。
「冗談やってば!セナちゃんの殺気は凪並みに怖いんやから!」
「そうか。夏弦、あとで少しお互いの認識の齟齬について話し合う必要があるみたいだな?」
一同は、一見するとただの高校生同士のようだった。休み時間や登下校で他愛ない会話を交わして笑い合う。そんな「普通」の高校生だ。
だが、実際にはそれぞれの立場から互いの腹を探り合いながら仕事に向かっていた。
現在、「天災令嬢」の書き溜めを作成しています。
今月出した短編なのですが、楽しくなり、気づいたら結構プロットができていました。
もし、更新頻度が落ちたら作者は「天災令嬢」の長編を書いていると思ってください。
また、その際は活動報告に更新頻度がどのくらい落ちるか掲載(?)いたします。




