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酔狂〜紫硝の怪物達〜  作者: 紫月 凛
二章〜何でも屋と表の女子高生〜
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刺客の所属

 セナは廃ビルの非常階段を駆け上がっている。


(来る。)


 手すりを踏み台にし、一つ上の階へと飛び移った。その足先すれすれを音もなく銃弾が掠めた。


消音器(サイレンサー)付きか。飛んできた方向からして……)


 時折飛んでくる銃弾やナイフ、針などを避けながら屋上へと向かう。

 屋上の扉を吹き飛ばし、中央でようやく足を止めた。


「私になんの用かしら?」


 セナの言葉に反応し、三つの影が彼女を囲むようにして現れた。

 それぞれの得物を手に、ジリジリと距離を詰める。


(拘束する時間をかけたくないし……手足の骨を砕くか。)


「手加減できなかったらごめんなさいね。」


 ふわりと優しく微笑んでからセナは視認するのがやっと、という速度で動いた。

 まず、正面にいる人間の足を踏み抜く。前に倒れ込むところを回し蹴りを叩き込み、後ろへ吹っ飛ばす。受け身すら取れずに地面を転がる人物の腕はあらぬ方向へ曲がっていた。


(やっぱり()()()()()()手加減しにくいわね。)


 背後に迫っていた人物には振り向き様に鳩尾へと掌底を入れ、吹き飛ぶ前に足を引っ掛けてその場に転ばせる。

 今度はシンプルに手足を踏みつけることで骨を折った。


「あら、来ないの?」


(三、二、)


 カウントが一になったところで三人目の人物は迷いなく屋上のフェンスへ駆け出す。逃げる気だ。そして、盛大にすっ転んだ。

 セナは屋上の扉を吹き飛ばした時、ついでにワイヤーを張っていたのだ。ワイヤーの一方を吹き飛ばした扉の取手に、もう一方を残った蝶番に結んでおいただけの即席トラップである。


「はぁ……嘆かわしい。こんな単純な罠に引っかかるなんて……」


 ゆっくりと歩み寄り、丁寧に関節を外した。


「普通に折るだけじゃ飽きるものね。」


 三人の人間はよく訓練された者だったのか、骨を折られたり関節を外されたりしても声を上げることはなかった。

 関節を外した人物をずるずると引きずり、骨を折った二人の近くに転がす。そして、三人の胸元あたりの服を裂いた。そこにはΨを閉じ込めるように六芒星が描かれた紋様が焼印されていた。しかも、バツ印の焼印も重ねられている。


収容所(アサイラム)の人間。それも()()()……だから声を出さなかったのね。)


 三人は全員女性だった。


「なるほどね。全て出荷しているわけではない、と。」


 白愛と別れてから廃ビルの屋上に来るまでで、セナは依頼を放棄したくなっている。勿論、裏社会では実力の次に信用が問われるため、そんなことはできないのだが。


「いいのかしら?この三人から私が情報を搾っても。」


(沈黙……しょうがない。)


 セナは躊躇なく関節を外した女性の胸元――正確には焼印のド真ん中にナイフを刺した。

 瞳の色が深くなり、ほんの一瞬だけセナは顔をしかめた。


(私の推測、今回ばかりは間違いであってほしかったわ。)


 女性の体はたった数秒で固く冷たくなった。魂の一部を砕かれたからである。

 セナの異能《霊鬼》は魂を完全に砕くことで相手の記憶の全てが、一部を砕くことでここ数ヶ月分の記憶が自分の魂に刻み込まれる。


 その記憶は地獄の記録だった。徹底的に精神と体を摩耗させられ、最後に壊された。そんな記録だ。


(ま、異能者にならなかっただけマシか。たった数ヶ月であの責め苦が終わったんだもの。)


 セナは先程殺した女性の何倍も酷い責め苦を何年も受けたことがある。女性にとってはこれ以上ないほどの地獄だっただろうが、セナからすれば生温いものであった。


「いい加減出てきなさい。貴方達ならわかるのではないかしら?私は今素手よ。手を抜いてあげられないの。」


 次の瞬間、セナの前後に黒ずくめの人間が二人現れた。


(これは……()()()のほうか。)


 前方の人間の顎を蹴り上げ、そのまま相手の首を太腿と脹ら脛で挟み込む。コンクリートの地面に叩きつけ、首の骨を折った。

 後方の人間には振り向きざまに肘を鳩尾にめり込ませる。先程、首の骨を折るのに使った脚とは反対の脚を顎に直撃させると、ゴギッという骨が砕ける音と肉が潰れる音が響いた。


「ふぅ、片付け終了。」


 念のため、脈を測り、死んでいることを確かめた。どちらも女性だった。瞼を指でこじ開けると、()()()()()の眼球があった。胸元の服を裂くと案の定、収容所(アサイラム)の焼印があった。最初に戦闘不能にした三人の焼印と違う点はバツ印がないことである。


「あの二人どうしましょうか。」


 顎に手を当てて考える姿はどこか芝居がかっている。二人のもとへと歩み寄り、その顔を覗き込む。

 目は虚ろで、焦点が合っていない。ただ力なくその場に転がっているだけで、一言も発さない。


(この状態じゃ何も話してもらえないのよね。はぁ……貸を返してもらうとしましょう。)


 まず、死体の処理のためにそれ専門の業者に連絡する。普段は自分でしているのだが、今回は時間が惜しいのだ。

 次に、殺した三人の体に注射器を刺して血を抜き、眼球を抉り出す。

 最後に骨を折った二人を無造作に抱え、セナは逃げるようにその場を後にした。

ハイファンタジーの短編投稿しました。

URL↓

https://ncode.syosetu.com/n1167ml/

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