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酔狂〜紫硝の怪物達〜  作者: 紫月 凛
一章〜何でも屋と元若頭様の世話係〜
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子供が暴行を受ける猫写が苦手な方は逃げてください。

 学校の教室ほどの部屋に子供が二十人ほど立っている。部屋の前方には小綺麗な服を着た男女がいた。


「明日、お客様が来る。失礼のないようにな。」


 「お客様」それだけで、子供達は明日、何が起こるかを察した。


 男は子供達にそれだけ言って部屋を出て行った。鍵の閉まる音を聞いた瞬間、ほんの少しだけ部屋の空気が緩んだ。

 子供達の髪や瞳、肌の色は様々で、身長や体格もバラバラだ。しかし、表情は全員同じだった。瞳に光はない。それなのに、口角は上がっている。まるで人形だった。




 その日の夜、二つの小さな影が引きずられるように地下の暗い部屋に放り込まれた。黒色の髪に琥珀色の瞳、同じくらいの背格好。顔立ちもかなり似ている。


 双子だった。


 その双子は逃げようとした。そして失敗した。それだけだ。この世界(裏の社会)ではありふれた出来事。それこそ吐いて捨てるほど転がっている。


 双子が放り込まれた部屋には他にも使い古された雑巾のような子供達が転がっている。そこに、昼間、部屋にいた男女が入ってきた。




 数分後




「大変…申し訳……ございませんでした………」


「商品の分際で…お手を煩わせたこと………を……深く謝罪申し上げまガっ…ゲホッゴホッ」


 双子は床に転がり、指一本動かすことができないなか、そう謝罪を口にした。しかし、女は醜く口元を歪め、双子の片割れの腹を踏んだ。ヒールのある靴で。咳込んでいる音を聞いても、脚をどかす気はない。さらに、グリグリと抉るように踏みつける。


「よく聞こえないわね。反省しているの?」


「ま、お前らは最底辺の商品に格落ちだからなぁ…はっ、運がよければいいご主人様に巡り会えたのに。そんなチャンスをドブに捨てるなんて。」


 馬鹿な奴らだなぁ、と男女はゲラゲラと嗤った。


 男はそれだけ言い、女と一緒に部屋から出て行った。


 部屋にはもとからボロボロの子供達と、比較的痣や出血が少ない、綺麗な双子だけが残された。


 男女が言っていたように、子供達がいる場所は人身売買をしている。容姿や能力によってランク分けをし、底辺の商品達は大人の道楽で殺されていく。


 ほんの数分前まで、双子は上流層向けの商品だった。しかし、逃げ出そうとしたことで底辺に堕とされた。


 底辺の商品は全て、商品としての何らかの欠陥を抱えている。いつまでも反抗的だったり、仕事を覚えなかったりすると、そこへ堕とされる。




 底辺の商品としての生活は、上流層向けの商品としての生活が楽園に思えるほど悲惨だった。大人のストレス発散のために使われ、新しい生傷や擦過傷、打撲ができることは日常になった。それらは手当てされずに放置された。さらに、食事を何日ももらえない日もあった。水すらもいつ貰えるかわからない。もとから痩せていた子供達はさらに痩せていった。

 双子も、全てを諦めたのか、屍のように床に転がったままでいた。動くことのほうが少なかった。




「お前らはもう必要ない。穀潰しは死ね」


 双子が地下の部屋に放り込まれてから三カ月ほど経った頃、地下の子供達は久方ぶりに地上に出た。そして、全員集まったところで男はそう言った。


 闘技場のような場所の、安全なところから男は言葉を発していた。

 子供達は自分達がどう処分されるのかを闘技場の席に座る沢山の人間達を見て察した。ボロ雑巾になるまで使い潰され、最期は見世物としてその生を終える。名前すら持たないまま、死んでゆく。

 普通の子供ならそこまで思考が至らない。そこまで考えられたとしても、泣き叫ぶか、絶望で座り込むか、怒りに染まるか、といったところだ。しかし、彼らはそれらのどの行動も取らなかった。ただ、光のない瞳で口角だけを上げていた。


 男が部下らしき者に指示を出し、女と一緒に豪華で悪趣味な椅子に座ろうとしたところで、事件が起きた。




 男が綺麗な放物線を描いて吹っ飛んだ。闘技場の中心まで。そして、先程まで男が立っていた場所には銀髪の少女が立っていた。


「ここは既に私の管理下にあります。逃げようだなんて考えないほうがいいですよ。」


 少女はよく通る声でそう言った。そして、女を気絶させてから、ふわりと朔を飛び越え、闘技台の上に着地した。

 その人間離れした美貌のせいで、子供達には女神に見えていた。

 女神は微笑みながら言葉を発した。


「今、貴方達には最低でも二つの選択肢があるわ。」


 子供達は驚き、人形のような表情を初めて崩した。自分達は商品だ。商品に選択肢が与えられるわけがない。

 それが、子供達の共通認識だった。


「一つ目はこの薬を飲んで死ぬこと。」


 女神はそう言ってウエストポーチから小瓶を取り出した。親指ほどの小さな小瓶だった。


「二つ目は私についてくること。」


 女神はその二つの選択肢を提示した。一人の子供は恐る恐る、女神から小瓶を受け取った。そして、穏やかな顔で地面に転がった。

 それを見た子供達は皆、自分の手で小瓶を受け取り、眠りに落ちた。この地獄のような世界で生きることなど、とうの昔に諦めていたからだ。


「貴方達は?」


 女神は最後に残った双子に視線を向けた。

 双子は女神のアメジストのような紫色の瞳に心を掴まれた。これほどまでに強く心が動いたのは生まれて初めてのことだった。


「……い…て………い…かせて…く……さい」


 掠れた声で双子はそう言った。


 女神は双子のもとまで歩み寄り、手を差し出した。


「そう。ゆっくり休みなさい。」


 その言葉を最後に、双子は意識を失った。限界だったのだ。




✽✽✽




「はっ…はっ…」


「夢……?」


 ユウリとルランは飛び起きた。


―――もう関わらないで


 セナにそう言われた日から二人はほぼ眠れていなかった。異能者というだけで睡眠はただでさえ浅い。さらに、あの夢だ。自分達の過去を眠る度に繰り返し見せられていた。眠れるわけがない。


 共用の部屋に行くとエラが優雅に紅茶を飲んでいた。


「顔色悪いわね。異能者じゃなかったらとっくにぶっ倒れてるんじゃない?」


 エラはちらりと二人に視線を向け、どうでもよさそうに言った。


「エラさん、あくまで僕達と貴方は収容所を潰すために協力関係にあるだけです。関係のないことについてはあまり詮索しないでください。」


 あまり、探られて気持ちのいいものではない。異能者過去など、そんなものだ。エラもそれをよく理解しているため、すぐに引いた。


「了承。ま、貴方達も収容所(アサイラム)と似たり寄ったりの施設にいたからしょうがないか。」


「私達がいたのは人身売買の組織です。収容所よりかは多少はマシでしょう。」


 ルランはそう訂正した。収容所(アサイラム)は異能者を道具以下として扱う。人身売買の組織はまだ商品として扱われる。たったそれだけの違いでも、天と地ほど差があった。


「………そうだといいわね。結局のところ…子供を道具以外の存在として扱う場所ってことは一緒なのに。」


 エラの呟きは双子に届くことはなかった。

これで一章完結です!

次回から二章に入ります!

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