34 映画(?)
顕に殺された父親は最期、少しだけ口角を上げた。まるで、安心したような微笑み。それでいて、申し訳なさそうな微笑み。
「私を殺そうとしてきたのはお前だろう…?」
顕は翔琉に案内された客間でそう呟いた。顕は父親を手にかけたその日から、裏で生きてきた。誰かを殺すことを日常にすれば父を殺した罪悪感が薄れると思ったからだ。
「忘れられるのは他人を殺めている時だけ、ですけどね。それでも…」
ーーー少しは楽だ
ほんの一瞬でも、父のことを忘れることができる。母親が父に刃を向けたことも忘れることができる。幸せだったあの頃も忘れることができる。だから、顕は裏で殺し屋として生き続けた。
表のぬるま湯に浸かる日常は確かに、楽だろう。命の危機が少なく、誰かと笑い合える日常だ。それでも、顕は裏を選んだ。表のぬるま湯での生活はふとした時に父親を殺した記憶を思い出す。母親の笑顔が脳裏をよぎる。急速に生命活動が止まっていく父親の体は人を殺した現実を顕に突きつけるには十分だった。
もう、何人殺したかも顕には分からない。師範から教えてもらった刀術を殺しに使い、父親の短刀を得物にする。顕と父親を「家族」として繋いていたものは全て血に汚れてしまった。
「母は最初から遺産目当て。はっ、父はバカですね。それに気づかなかった私もそうですけど。」
今、思い出してみると母親の表情は全て「演技」だった。作りモノだった。顕と父親はそれに気づけなかった。ただ、それだけ。
裏では騙された方が悪い。
それが常識だ。表のように法やルールは意味を成さない。まず、存在しない。それは裏に入ったばかりの顕でも知っていたことだ。数年経った今では表のルールなど、なぜ守っていたのか首を傾げてしまうほど、馴染みのないものになっている。裏では面倒な人間関係や上下関係などは実力があれば簡単に断ち切れる。無理して関係を持つ必要などない。
「やはり…ここのほうが楽ですね。」
顕はそれだけ呟き、短刀を胸に抱いたまま眠りについた。
―――およそ一ヶ月後
「顕くん!君の主が生まれたよ!」
翔琉が叫ぶようにそう言って客間の障子をスパーン、と開けた。
「月守組に入る気はないのですが…」
顕は微笑みを引きつらせながらもう何度目か分からない言葉を言った。
顕は翔琉に丸め込まれるようにして月守組の屋敷の客間に泊まり続け、気づけば一ヶ月が経っていた。翔琉はいつもニコニコと笑っているため、一見すると無害そうに見える。しかし、長年裏社会で生きてきただけあって、とんだ食わせ物だった。相手が口を開く前に話を始め、自分のペースに持ち込み、態勢が整う頃には逃げ道が消されている。翔琉は「あと一日」と顕の滞在期間を延ばし続けていた。顕は逃げるタイミングを逃し続け、見事に翔琉の術中に嵌ってしまっていた。
「まぁまぁ、そう言わずに。せめて顔だけでも見てってよ。」
翔琉に連れられ、顕は青羅がいる部屋に来た。
「青羅、入るよ。」
「どうぞ〜。」
翔琉はしっかりとノックをし、青羅の了承を部屋に得てから入った。
「失礼します。」
顕は軽く頭を下げてから翔琉に続いて部屋に入った。
部屋の中では青羅がタオルに包まれた赤子を抱いていた。




