31 映画(?)
「君、相変わらずつよいねぇ〜。」
父親を息子が殺してから数年、彼は裏社会でフリーの殺し屋として生きていた。
「誰ですか?」
「わ〜、そんなに睨まないでよ。僕は荒事、そんなに得意じゃないんだよねぇ。顕くん?」
父親を殺した息子―顕は声の主を睨む。
「こんばんは。僕は月守組の組長、月守翔琉っていいます。よろしくね。」
「月守組…裏で有名なヤクザの組ですね。生憎、私はフリーの殺し屋です。月守組の方に直接声をかけていただくような身分では「君、月守組に来ない?」」
「は?」
翔琉は顕の言葉を遮って自分の用件を言った。顕は予想外の言葉に驚き、口をポカンと開け、間抜けな顔を晒す。
「あと少しで青羅と僕の子供が生まれるんだよ。そのお世話兼教育係の人を今探しててね。君、強いし頭もいいし。丁度いいじゃん?」
「いや、ちょっと待て…いえ、待ってください。私の過去を知ってそれを言ってますか?」
「ん?過去って…父親に殺されかけて返り討ちにしたこと?」
顕の表情が強張る。図星だ。
「なら…」
「別によくない?殺さなきゃ自分が殺されてたんだよ?親だろうと自分を守るためにしたことの何がいけないのかな?」
翔琉は心底不思議そうに首を傾げる。顕が忌避している過去を少しも否定しない。むしろ、目を輝かせる。
「ちゃんと反撃できるってことでしょ?それも実の親を殺してまで。僕が探してた条件にぴったりだ。ってことで、帰ろっか。」
「まだ月守組に行くことに同意してねぇだろ!?耳聞こえてねぇのか!?」
顕は全力でツッコんだ。口調が昔のものに戻ってしまっている。場の張り詰めた空気が音を立てて崩れ去った。
「大丈夫!君はもう月守組に来ることは知り合いの情報屋を使って広めてあるから!」
「ふざけんな!勝手に俺の進路を決めんな!クソ野郎!」
「あははっ!元気だねぇ。」
翔琉は顕の反応をとても楽しそうに見ている。
「って…引っ張るな!いえ、引っ張らないでください!」
「いいから、いいから。遠慮しないで〜。」
翔琉は一方的に言いたいことを言うと、顕の腕を掴み、車内に引っ張り込む。荒事は得意じゃない、と翔琉は言っていたが、その言葉が一瞬で否定されるほど彼の力は強かった。
「私はどこかに所属するつもりはありません。」
「君、大人しく月守組に来ないと仕事できないよ?」
顕は翔琉の言葉に沈黙する。目の前の男はそれを実現するだけの力を持っている。冗談では終わらないだろう。
「いいんですか?私は自分の命最優先ですが。いざとなったら組員を盾にするなり囮にするなりして私の命を守りますが。」
顕の真剣な言葉に翔琉はヒラヒラと手を振って答える。
「それでいいよ〜。結局は最後まで立ってたコが正義だしね。それに、裏でそこそこ有名な僕に普通に暴言吐けるなんて逸材、逃すわけないでしょ。」
翔琉は顕の肩に手をポン、と置く。
「安心して。僕は君がどこに逃げても絶対に捕まえて雇うから。」
「冗談にきこえないのですが…」
「うん。本気だね。」
顕は翔琉の言葉に若干引く。翔琉はそれすらもニコニコと楽しそうに見ている。
「貴方、既婚者ですよね?」
「うん。妻と娘と息子も今度生まれるね。」
「今日が初対面の男にこの距離はどうなんですか?私が女性だったら一発アウトですよ?」
顕の言葉に翔琉は目を輝かせる。
「なになに!?心配してくれてるの!?顕くん、優しいね!大丈夫だよ!青羅も莉葵も僕がそんな男じゃないって知ってるから!青羅はねちょっと癖のついた黒髪に空色の瞳でね、すごく綺麗なんだ!莉葵は僕の娘でね、青羅と同じ黒髪に僕と同じ朱色の瞳なんだ!今は一歳でね、パパって初めて呼んでくれた時はすごく嬉しくてもう可愛くて。青羅もママって言われて嬉しくて莉葵を思いっきり抱きしめてて…莉葵も最初は抵抗してたのに青羅を抱きしめ返しててね、天使だよね!?僕の娘天使。青羅も昔から滅茶苦茶綺麗!そして強いんだ!美人で強くてカッコよくて可愛いなんて最高じゃない!?普段組員の前では凛とした表情なのに、莉葵が来た瞬間、デレっとした表情になるんだよ!もう、可愛い!青羅、僕と結婚してくれてありがとう!莉葵も生まれてくれてありがとう!もう一生大切にする。できることなら誰にも見せたくない。どこかに閉じ込めて僕しか会えないようにしたい。でもそれすると青羅にも莉葵にも嫌われちゃうし…何より青羅が大人しく閉じ込められてくれるとは思えないし…もうどうすればいい!?あんなに可愛いくて綺麗な青羅を閉じ込めたいってずっと思ってるんだけど、それがバレたらマズイから隠してるんだけどね!?莉葵はなんか勘が鋭いからいつかバレそうだし…はっ!今度生まれてくる息子にこれが遺伝したらどうしよう!?好きな子を独占したいって気持ちはいつ暴走するか分からないのに!僕も小学生の時とか勿論、中学、高校でも暴走しかけたけどさぁ…なんとか耐えたよ!?青羅が僕のこと好きって言ってくれたから耐えたよ!?そこで他の奴の名前出してたら危なかったケド!もうね、可愛い!しかも高校のファンクラブも潰したいのをギリギリ耐えたし!もういいかな!?これ以上我慢できないよ!?僕もう青羅が可愛いすぎて無理だよ!?それでね―――」
翔琉は顕の肩を掴み、ガクガクと揺さぶりながら惚気始める。顕は既にまともに聞いていない。それどころか、意識が遠のきかけている。車の運転手は慣れているのか、微動だにせず、運転に徹している。顕は翔琉の妻と娘の惚気話を延々と聞かされながら月守組に強引に運ばれていった。
ヒェ…翔琉さん、恐ろしや。後半ほとんど翔琉さんの惚気話になった。顕さんはドンマイすぎる。凪には遺伝してるのかな?大丈夫かな?
※作者は全力で遊んでいます。大真面目にふざけているだけです。通常運転なので安心してください。
果たして凪に翔琉さんのヤンデレ属性は遺伝しているのか…?真相やいかに!(楽しい!)




