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酔狂〜紫硝の怪物達〜  作者: 紫月 凛
一章〜何でも屋と元若頭様の世話係〜
28/40

27 凪視点

「こちらへ来ないでください。不愉快ですので。」


「どうして…?」


「ほら。貴方はどこまでも味方に甘い。先日、刃を向けてきた間者も月守組(うち)の組員だから、とかばっていらっしゃった。そんな優しさ、(ここ)では必要ありません。」


 地面にへたり込む紺色の髪に空色の瞳の少年とそれを見下ろす茶髪に緑色の瞳の男―――凪と顕は倉庫の暗闇の中にいる。


「で、でも…」


「言い訳は結構です。はぁ…私がお教えした武術や体術を実戦で使わないでいつ使うのですか?貴方の実力ならあんな輩の十や二十、すぐに片付けられるでしょうに…」


 顕は額に手を当て、嘆くように上を向く。その仕草はどこか芝居が勝っている。


「あぁ。翔琉様に私が組を抜ける旨、伝えておいてください。貴方が生きていたら、ですが。」


 顕は倉庫の出口へと歩き出す。


「ま、待って!」


 凪は顕を追うために立ち上がる。


「もう…顕、遅いじゃない。」


「申し訳ございません、母上。」


 凪からは暗くて顔が見えないが、声から三十代後半から四十代前半あたりの女性が倉庫の出口に現れた。


「大丈夫よぉ。だって、その子を殺せばお金を貰えるんでしょ?」


「殺すのではなく、生け捕りにすればその倍は貰えますよ。」


 顕と女性は楽しそうに談笑する。凪はその光景を最後に意識を失った。




***




「一緒に逃げないの…?」


 幼い凪が一緒に過ごしていた少女に尋ねた。

 ()()の少女が凪と小指を絡める。


「逃げて。今から私は夜通し暴れるから。その間に逃げて。いつか、生きていたら会えるから。約束。」


 少女はそれだけ言うと、施設の奥へと消えて行った。




***



「凪…よかった…生きてた…」


 凪が目を覚ますと視界に見慣れた天井が映った。凪はベットに寝かされており、その手を空色のモヤに深い悲しみと安堵の色を混ぜた母の青羅が握っていた。そのすぐ側には深い青色のモヤに怒りの色を宿した父の翔琉と真紅のモヤに心配の色が混ざった姉の莉葵がいる。

 三人は数分程、凪の無事を喜んだ後、医者に呼ばれ、部屋を出て行った。

 凪は痛みに悲鳴を上げる体を無理矢理ベッドから降ろし、姿見の前に立つ。凪の瞳は桔梗(青みがかった紫)色だった。母、青羅と同じ空色の瞳ではなく、桔梗色の瞳。それは、異能者の証だった。

 凪は家族に視えたモヤが見間違いではなかったと理解した。そして、自分の異能がどういうものかも本能的に理解した。


―――千里眼普通は視えないものを視ることができる異能。顕微鏡を通して観察しないと見えないほど微細なものや生物の痕跡、そして、生命の輝きである生命力(エネルギー)、オーラ―――




***




「また、あの夢か。」


 凪は日が昇る前に目を覚ました。

 凪は異能が覚醒した時の記憶をほぼ覚えていない。しかし、魂にまで刻まれた"少女との約束"はハッキリと覚えていた。少女の容姿は覚えていないが、"約束"は覚えている。


(そういや、あの何でも屋と顔立ちが似ているな。髪色は違うが、人間離れしている綺麗な容姿だった…まさか、同一人物か?)


「ッ…」


 そこまで考えたところで、凪を頭痛が襲った。凪はそれ以上考えることを()()()()()()()


(………アイツはどんな顔だった?思い出せん。まず、俺は夢を見ていたのか?)


 頭痛が引いた時には凪は"約束をした少女"の顔を忘れていたからだ。そして、次の瞬間にはその夢を"視た"ことさえ忘れていた。

 凪の横顔を朝日が照らす。いつの間にか、太陽が、昇っていた。


(アイツに呼び出される前にできるだけのことはしておくか。にしても、ユウリとルランとかいう双子も相当"闇"が深かったな。ま、セナほどではないか。これは調べておく必要があるな。)


 凪はセナにいつ呼び出しを受けてもいいように彼女について調べることにした。その顔はいつもの無表情ではなく、少しだけ口角が上がっていた。

楽しい…!もっと堕ちてほしい…!

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