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ドゴッ
バキッ
ゴスッ
セナが甲板に降り立つと地面に転がる男とそれらを拘束している少年、凪がいた。セナよりも先に乗り込んだ凪が甲板にいた見張り役を無力化したのだ。
「今は夜だから見張り役以外は中にいるのかしらね。じゃ、打ち合わせ通りにお願いね。」
「あぁ。応援を呼ばれないように船内の奴を全員無力化したら合流する。」
そう言って凪は一足先に船内に進んでいった。甲板に残ったセナは凪に無力化され、拘束された男の下瞼を引っ張ったり、顔色を確認する。さらに、口をこじ開けて口内を確認すると歯と歯茎の境目に黒い線があった。
(鉛中毒確定。ってことはドリーム・ドロップを摂取していたのね。)
ドリーム・ドロップはその粗雑な製造過程で少量の鉛が混入する。そのため、麻薬の症状だけではなく、鉛中毒による貧血などを引き起こすこともあるのだ。
(この船を覆っているプログラム……施設でしか見たことがない。もしかして、姉さんは逃げられなかったの?)
セナは目を閉じて思考に没頭する。自分の推測が違うという確証を得るために。
「はぁ、残念。生かして利用しようと思っていたのだけど…容赦する必要、ないわね。」
結論を下し、セナは目を開けた。
彼女はニコニコと人間が警戒できない微笑み浮かべてそう呟いたが、その言葉はゾッとする程冷たく、昏い瞳をしていた。殺気も敵意も何も宿していない昏い瞳には彼女が必死に隠している闇が滲んでいた。
セナは船内に入り、真っ直ぐ操縦室に向かう。操縦室の扉に鍵が掛かっていることを確認すると、彼女はすぐに蹴破った。
ドガッ!
セナは操縦室内の人間が自分の方を向く前に死角になる位置に素早く移動した。
操縦室の中にいた数名の男は大きな音に驚き、直ぐ様扉の方へ顔を向けた。しかし、そこには誰もいない。鍵が壊れ、外れかけている扉があるだけだ。
「誰かいるのか?」
男達の中で一番身なりのいい男―おそらく船長―がそう扉に声を投げかける。操縦室内は不気味なほど静まり返っており、時々波の音が響くだけだ。先程声を発した船長が扉の方へ歩いて行き、通路を確認するが、人がいる気配はない。一度、船内の監視カメラを確認しようと船長が操縦室内に顔を向けると、彼以外は全員倒れていた。
「こんばんは、船長さん。いい夜ですね。今夜はホログラムで船を隠しやすいでしょう?」
船長の耳元で少女の声がそう囁いた。船長は反射的に声の主の意識を奪おうと顎を狙って裏拳を振るったが、空を切った。そして、次の瞬間には視界が上下反転し、重力に従って床へと体を叩きつけられていた。
「グッ…貴様、何者だ?」
「少し大人しくしていください。」
片腕を極められ、床に組み伏せられた船長が呻くように問う。声の主は船長の腕を拘束し、船長の前にしゃがみ込んだ。そこには、この場には不釣り合いな美しい少女がいた。
しかし、船長の目を釘付けにしたのはその美しい容姿ではなく、爛々と輝くアメジストの瞳だった。紫色の瞳は異能者の証。船長は裏の人間になってから長い。そこそこの実力を持っている。故に、悟った。目の前の強者に対する態度を少しでも間違えれば己の頭と胴は泣き別れになると。緊張で船長の顔は強張る。いかつい男が顔を強張らせるところを見て、少女は花も綻ぶように笑った。
「船長さん。私の質問に嘘偽りなく答えてくださいね?」
船長は己よりも明らかに年下の少女の有無を言わさぬ命令に白旗を上げた。
この世には逆らってはいけない人種がいる。船長はよくそれを理解している男なのだ。
鉛中毒をどこで知ったのか…少しも覚えていない…




