24 凪視点(?)
「お前…気絶してるんじゃなかったのか?」
「私があの程度で気絶すると思ってるの?ちゃんと飛ばされながら受け身を取ったわよ?」
セナは先程まで力なく地面に転がっていたことが嘘のように平然と微笑んでいる。
「骨は?あばらが何本か砕けていただろ。異能も発動してなかったはずだ。」
「気絶したフリをするために異能を発動せずに少し放置してたのよ。」
セナは凪の質問に答えながら顕の前にしゃがむ。
「結膜が白っぽい、隈もある…顕さん、頭痛や睡眠不足、立ちくらみが最近続いてませんか?」
「まぁ、はい。言われてみれば最近多いですね。」
「貧血か。ってことはアレが確定する。―――が関わっているのかしら?」
セナはブツブツと小声で独り言を漏らす。その内容は凪と顕には聞こえていない。
「急にどうしたのでしょうか?」
「ほっとけ。あいつは元々マイペースだからな。」
セナは結論が出たのか、その場に立ち上がって近くに積まれているコンテナの方へ視線を向ける。
「夏弦、いるんでしょう?さっさと出てきてもらえる?」
「やっぱバレてたんか。何で分かったん?」
コンテナの陰から異能で気配を消していた夏弦がアタッシュケースを持って出てきた。普段のスーツ姿ではなく、ロライと取引をしていた子供達に紛れ込むためか、ラフなものを着ている。
「麻薬の回収お疲れ様。今夜、凪のこと借りるわね。」
「了解。なら、俺は顕さんを連れて先に月守組の屋敷に帰ってるで。」
セナは夏弦と簡単なやり取りを済ませ、凪の腕を掴み、引っ張る。
「着いてきて。最後に暴れてもらうから。」
凪とセナが無言で歩くこと数分、港の普段は人が立ち入らない、隔離された場所で立ち止まる。セナが微笑みながら指し示す方角を凪が桔梗色の瞳で視ると、人が三十人程乗れる中型船が停まっていた。
「あれは…密輸船か。」
「あっ、やっぱり千里眼だと視えるのね。」
「ホログラムか?周囲の景色と船が同化して上手く隠されてる。」
港の隅に停泊しているその船は高度な技術―表では使われていない技術―が使用されたホログラムによって周囲の景色と同化し、常人の視界からは完全に消失していた。
「あらかじめここに船があることを知らないと簡単に見逃すわね。ちなみに、麻薬の貿易船よ。今日を逃すと次、いつ来るのか分からないわ。掃除したいなら一緒に来て。自分の縄張りを荒らされたぶんの落とし前、つけたいでしょ?」
セナは楽しそうな笑みを浮かべているが、どこか作りモノめいている。普通は見抜けないだろうが、凪には分かるモノだ。自衛のために笑顔を張り付けているだけだ、と。
(今は追及しない方がいいか。コイツに雲隠れされると面倒だ。)
「お前に言われなくても掃除はする。元々、夏弦に探らせていた船だ。」
「私も。ユウリとルランに探らせてたの。麻薬は外国から流れてきたものだったから。空港と港のどちらかだと思ってね。」
凪とセナは会話を交わしている間も船から一切視線を逸らさない。
「銃は控えたほうがいいわね。アレは囮で粉塵爆発とか準備されてたらヤバいし。」
セナは微笑みながら冗談では済まないことを軽く言う。
「かなり具体的だな。体験したことがあるのか?」
「数年前にね。暴力団の船に弾丸撃ち込んだら船が爆発して……。証拠とか船員とか全部爆発しちゃったからあの後大変だったのよ。」
「よく生きてたな。自己治癒のおかげか?」
「そうね。全身に酷い火傷と骨折を負ってさらに、鼓膜も破裂したのよ。痛かったわ。」
セナは粉塵爆発で負った怪我を軽く話した。常人ならば助からないであろう重傷だが、彼女は自己治癒のおかげで命拾いしたらしい。彼女の腕やスリットから覗く脚には火傷の跡など少しもない。様子を見る限り、音も問題なく聞こえている。
「自己治癒は怪我を治すだけで痛みは軽減されないのか?」
「まず、前提として痛みは人体の危険信号であることは知っているでしょう?私の場合は異能で治るから基本はそんなに酷くないわ。だけど、治さずに放置していると痛みが酷くなっていくわ。」
緩い空気で会話をしていた二人は船の目の前まで来ると口を閉ざす。船に自爆装置が積み込まれている可能性があるからだ。船を爆破されると、ロライの背後にいる勢力への手掛かりが海に沈むだけではなく、無関係の人間も集まってしまう。特に、公的な機関が集まると裏社会の人間である凪やセナはこの件から手を引かざるを得ない。それらを防ぐために短時間で船を制圧する必要があるのだ。
「私は船長押さえるから。凪は他をお願い。」
「了解。何人かは生きたまま操縦室に連れてく。」
二人は短く打ち合わせを済ませると、音もなく船内に潜り込んだ。
二人の姿は船を覆う偽装ホログラムの揺らぎの中へと、溶けるように消えていった。
大幅に修正したい…しかしメンドい…どうしたものか…




