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「………なぜ、私を助けたのですか?」
顕は不安で瞳を揺らしながら絞り出すように問うた。
「俺は子供の頃、世話係だったお前に何度も助けられた。今、戦う力があるのもお前が俺に教えたからだ。その分を返しただけだ。」
凪は無表情のままだ。言葉も淡々として愛想はないが、嘘は言っていない。
「私は貴方に忠誠を誓った身です。しかも、それを裏切った人間です。貴方に助けていただく価値などありません。そんな義理も。」
顕は凪の視線に耐えられなかったのか、再び顔を俯かせてしまった。
「はぁ…」
凪の溜息に顕は肩をビクリと震わせる。彼は罵詈雑言を浴びせられることを覚悟しているが、それでも怖いのだ。
「バカか。それはお前が決めることじゃない。」
凪の言葉には鋭い怒気が籠もっていた。
「周りの人間が何と言おうと、俺の行動を最終的に決めるのは俺だ。俺はお前を助けたいから助けた。俺はお前に武器の扱い方を教わった。だからお前を助けたそれだけだ。」
顕が顔を上げると彼を真っ直ぐ見下ろす桔梗色の瞳と目が合った。顕はそれを見て何かに耐えるように顔を歪める。
「ですが、貴方は私のせいでその瞳を得たのですよ?!私が裏切らなければ死にかけることもなかった!………自分が死にかけた原因を作った私を助ける必要など……そんな義理もないではありませんか……」
顕は懺悔するようにグチャグチャな感情を吐き出す。凪は地面に片膝をついて彼と目線を合わせる。
「確かに、俺はお前のせいで死にかけた。そして異能を得た。だが、原因はお前じゃない。」
顕は困惑していた。凪はお世辞や同情ではなく、本心からそう言っている。だからこそ、加害者である顕に罵詈雑言ではなく、庇うような言葉を掛ける意味が分からないのだ。
「顕、俺はあの日、お前があの行動をとった理由を知っている。そして、その元凶も。それ以上自分を卑下する言葉を言うならそれが本人であろうと許さん。死ぬまで俺のもとで働け。」
「それは…私が私を卑下する言葉を使わない場合はどうなるのですか?」
「俺のもとで動けなくなるまで働いてもらうだけだが?」
凪は当然のように言い放った。顕はその言葉に諦めたように首を振る。
「それはどの道、貴方のもとで働くことになりますね。」
「あぁ。老化で体が動かなくなるまでな。顕、月守組に戻ってこい。」
顕の表情にはまだ罪悪感が残っているが、散々感情を吐き出したことと凪の言葉で逃げることは止めたようだ。立ち上がった凪の前に跪き、頭を垂れる。
「この身が動かなくなるその時まで、存分にお使いください。」
「あぁ。」
凪が顕の言葉に適当に返事を返す。しかし、顕はそれすら嬉しそうに笑った。
「誤解は解けたみたいね。」
凪と顕は突然、少女の言葉が聞こえたことで驚き、一歩後退った。
二人から少し離れた位置に銀髪に紫色の瞳の美しい少女が微笑んでいた。その少女は先程、凪が腹を蹴り飛ばしたことで気絶していたはずのセナだった。
うむ。ここは誰の視点なのか…




