21 凪視点
―――コイツは何で生きている?
セナと初対面の時に凪が抱いた感想がそれだ。普通の人間はセナの浮世離れした容姿に目を奪われる。
しかし、凪はその浮かんできた疑問の答えを知りたくて目が離せなかった。なぜなら、セナから何も視えなかったからだ。
凪の千里眼では微細な物質だけではなくオーラも視ることができる。
オーラとはその対象の生命力だ。視た対象が強ければ強いほど、オーラは濃くなる。
しかし、そのオーラがセナには視えなかった。オーラが視えないものは死んでいるものだけだ。セナは生きている。オーラが視えないほど薄いわけではない。なぜなら、彼女は強いから。初対面の時、凪の攻撃を軽く避けて反撃までしてきたのだから、弱いわけがない。
―――なぜオーラが視えないのか?
この答えはたった今、明らかになった。凪が背後の血を流して倒れているセナを視た時、彼女の闇が見えた。
―――否、闇しか視えなかった。
セナがいるはずの場所が闇に覆われ、彼女の姿が視えなかったのだ。しかし、それはほんの一瞬のことだった。すぐにその闇は消え、人間が警戒できない微笑みを浮かべたセナがいた。何も視えないセナがいた。
「お前…大丈夫なのか?」
凪は反射的にそう問うた。異能者の精神が強く、本人が笑って隠せていても彼女は異常だ。
(いくら俺らでも廃人になるレベルだぞ?!)
「ははっ…」
セナの自嘲するような笑い声が凪の耳に届く。表情は普段と少しも変わらないが、その笑い声は空っぽだった。
セナは立ち上がってナイフを取り出す。
「今のが私の異能よ。もう全部治ってるわ。」
凪は桔梗色に染まった瞳を真っ直ぐセナに向ける。そして、その端正な顔を 歪めた。
「それは肉体の傷に限った話だろ。」
凪の口調から彼が苛立っていると分かる。表面上はすぐにいつもの無表情に戻ったが、内心ではセナに怒りに近い感情を向けている。
(コイツはただの取引相手だ。どこで死のうが生きようが知ったことじゃない。)
セナは凪の言葉に反応を示さずに地面に膝をつく顕の方へ歩を進める。彼女の白銀の髪が月に照らされ、青みを帯びる。
「ご依頼通り、凪の中から貴方を消してあげる。」
セナはナイフを振り上げ、踊った。月に照らされて、命を奪う行為を神秘的な、それこそ映画のワンシーンに錯のように覚させる。
セナは凪に見せつけるようわざと緩慢な動きで顕へと迫る。
(依頼?麻薬の調査とは別か。まさか、本当に殺る気かッ…マズイッ)
凪は地面を蹴った。間に合わない間に合わないと判断すると、スーツの袖に隠していた投擲ナイフをセナに投げる。セナがナイフを避けた隙に距離を詰め、彼女の首に容赦なく刀を振るう。セナはそれを紙一重で躱し、凪から距離をとる。
「酷いじゃない。」
「コイツを殺す気か?」
セナは凪に優しく微笑んでいる。人間が警戒できない微笑みを浮かべている。凪にはそんな彼女が得体のしれない化け物に見えていた。
(どんなに人を殺すことに慣れている奴でもここまで普段と変わらないなんてことあるか?)
「麻薬とロライの調査に顕の片付けは含まれていないはずだ。」
凪はセナを探るように言葉を発する。
「それが?」
セナはコテン、と首を傾けて聞き返す。顕を片付けることに対して罪悪感や恐怖など何も感じていない表情だ。
「依頼は顕さんの生死について何も触れていないわよ?だから、生かすも殺すも私の自由でしょう?」
(演技か?いや、分からん。オーラからも読み取れない。)
「そうか。確かにそうだな。」
セナが言っていることは間違ってはいない。裏のルールなら普通に許容範囲内のことしか言っていないのだ。
「私、何か間違ってること言ったかしら?」
「いや。お前はルールに反しているわけじゃない。」
凪はセナに刀を向ける。セナは武器を向けられても微笑んでいる。
「ただ、俺の大切なモノに手を出すなら、全力でお前を排除する。」
セナは楽しそうに口角を上げ、地面を蹴る。
「さようなら。」
刹那、夜の静寂を切り裂くような、激しい金属音が辺りに響き渡った。
あと10話ぐらいで一章終わると思います。番外編をいつか書こうと思ってます。リクエストあれば感想(?)と一緒にお願いします。




