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「セナ様、アイツが来る前にできるだけ手短に先日、私達の反応を見て遊ぶことに使った情報の詳細を手短に、かつ正確にお教えくださいね?」
凪から依頼を受けた三日後、セナが集合場所であるタワーマンションの最上階の部屋に入ると玄関でルランが仁王立ちで出迎えた。
「はいはい。ちゃんと教えてあげるから安心なさい。」
「セナ様、紅茶とお菓子の準備、できましたよ。ルランも食べるでしょ?」
「今日はチーズケーキだっけ?ユウリのお菓子はすごく美味しいから楽しみにしてたの。」
セナが適当にルランをあしらっているとユウリがお茶の準備ができたことを知らせてくれた。ルランはユウリの作るお菓子が好きなため、嬉しそうに笑う。ユウリはリビングのローテーブルに切り分けたチーズケーキと人数分の紅茶のカップを並べられていた。
「ありがとう。少しお腹が空いていたのよ。貴方達の話は食べながらでいいかしら?」
言うが早いか、セナはすぐにソファに腰掛け、紅茶を一口飲み、チーズケーキを一口食べた。紅茶の茶葉はアールグレイで、さっぱりとした飲み心地だ。柑橘の渋みや香りが紅茶に混ざり合い、深みのある味わいになっている。しっとりとしたチーズケーキとの相性もいい。
セナは今、銀髪にアメジスト色の瞳と本来の姿だ。その神秘的で儚く、人間離れした美貌のおかげか、紅茶を飲む、ケーキを食べる、という何気ない動作すら宗教画のような光景に錯覚させる。ユウリとルランは一瞬、セナに見惚れたが、数秒で我に返ってセナの前のソファに腰掛けた。
「ユウリは紅茶を淹れるの上手ね。美味しいわ。」
「ありがとうございます。」
セナに褒められてユウリは嬉しそうにはにかむ。ルランは頬に手を当ててそれはそれは美味しそうにチーズケーキを食べている。
(これだけ見たら誰もユウリとルランが裏社会に関わっていると思わないでしょうね。)
ユウリとルランは年相応の少年、少女の顔になっていたのだ。しかし、それは一瞬で、すぐに何を考えているのか分からない笑みに戻ってしまった。
(誰に似たんだか。ま、裏では考えてること読まれたら終わりだものね。)
「で、今回はどこまで調べられたの?」
セナはソファの肘掛けに腕を置き、頬杖をつく。ユウリとルランがセナが置いていった情報をどこまで調べたのか、二人の実力を把握するためにも彼女が知っておきたいことなのだ。
「月守凪、表では月浦静空、私立光明学園高等部の二年生で成績はセナ様…零華と並んで常に首席。月浦楓佳の弟。裏でも、表でも、幼馴染の月海夏弦かいとと一緒にいます。月海夏弦の表の名は月屋海利です。そして、光明学園の理事長は月守翔琉、表での名は月浦翼。」
「月守翔琉―――表での名を月浦翼は光明学園の理事長を務めています。また、彼は表で、謎の資産家としてもしられています。真っ当な収益でもかなり稼いでいるため、裏の仕事をしなくても組織を維持することはできます。それでも裏の仕事をする理由は何百年も続いている家業だから、と表では息がしづらいからです。息子の凪と娘の莉葵が学校に通っている理由は表で生きる道を残すため、らしいです。」
「それから―――」
(予想以上に調べてるわね…翔琉さんは情報の扱いには厳しいから偶然とかはありえない。はぁ、ユウリとルランが順調に力をつけていることを素直に喜んでいいのか…)
セナは二人の実力を上方修正する。そして、二人の報告をBGMに紅茶を飲み、チーズケーキを食べる。
(二人は最低一日、学校に行ったはず。)
ユウリとルランはセナが全て情報を伝えなかった本当の理由には気づいていない。二人を学校に行かせるための口実だとは微塵も思ってないだろう。セナには二人を生かしてしまった責任がある。彼女はそれを最低限、果たすだけ。
「そろそろお客様が来るわよ。」
セナの言葉にユウリとルランは自分達の分の食器を片付け、来客の準備を始める。
―――仕事の時間だ―――




