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「勘よ。」
セナは凪と夏弦の異能が分かった理由を簡潔に答えた。間違いなく、凪の苛立ちを加速させると分かっていてそう答えた。その証拠にセナは楽しそうに口角を上げて凪に視線を向けている。
(残念ながら、本当のことは教えられないのよねぇ…)
凪はセナの答えを聞いて彼女を威圧する。ふざけた答えは許さない、と。それは一般人ならば一瞬で気絶する程のものだ。しかし、セナはそんなものなど、どこ吹く風と受け流す。それどころか、スマホを取り出して操作を始める。
「それで俺が納得すると思っているのか?それと、今日、俺をここに呼び出したのは俺がした依頼に関することで異能はついでだろ。」
「いいえ。惜しいわ。正解は依頼に関することが一割、異能についてが一割、貴方をからかうことが八割よ。」
凪はセナの言葉に青筋を立てながらも納得させられた。なぜなら、先程から凪を苛立たせる言動ばかり行っているからだ。
「お前……性格破綻者だったのか。」
凪は疲労の滲む声を出した。
「あら、大丈夫?疲れているみたいだけど…」
「………」
凪は沈黙した。セナにツッコんだ場合、余計に疲れると悟ったからだ。セナはスマホの画面を凪に見せる。その画面にはセナが昨夜会った、ある男についての情報が表示されていた。凪はスマホを受け取って画面を見る。
「お前はコイツとどこの海で会った?」
凪の言葉には殺気が乗せられていた。フザケた回答は許さない、という圧がセナにかけられる。しかし、セナは表情を変えずにまた油を注ぐようなことを言う。
「これはケンのプロフィールよ。あぁ、ごめんなさい。貴方には顕と言ったほうが分かりやすかったわね。」
セナはニコリ、と微笑みながらそう言った。
「貴方の異能が覚醒するきっかけを作った人物よね?私の手にあった指紋は貴方が知っての通り、顕さんのものよ。昨夜、少しだけお話をしたの。貴方の異能を特定するためにね。」
凪の異能である千里眼は普通では視えないものを視ることができる。千里眼で視えるものは顕微鏡を使わなければ視えない微細なものや生物の痕跡などだ。
セナはサキの姿になってから服を着替えていない。
(顕さんと会った時に海水でもかかったのね。その海水の水分が蒸発して塩の結晶になっていたってところか。)
「そうか。指紋と塩の結晶をつけているのはそのせいか。俺の異能を千里眼だとわざわざ特定して何を考えているんだ?」
セナに確かめるように凪は言葉を発した。
(大体予想通りだけど、別の異能って線もあったしね。ま、分からなくてもいいんだけど。)
凪はセナから受け取ったスマホを無言で返した。
「大した情報収集能力だな。」
「あら、月守組の若頭様から褒められたら照れてしまうわ。」
セナは少しも照れていない。息をするように嘘を吐いているだけだ。
「今回の件に顕が関わっているのか?」
凪はセナの発言をスルーして本題を尋ねる。セナは肩をすくめて答えた。
「ええ、そうよ。彼のことについて知っていることを話してもらえるかしら?」
セナは依頼達成に必要だから、という建前で凪から情報を引き出そうとしている。凪は月守組の次期組長だ。仕事で長い付き合いになる可能性が高いため、保険は多いに越したことはない。
「……………少し、時間をくれ。」
凪は少しの間黙ってからそう呟いた。セナに向けての言葉ではなく、自分に言い聞かせるような言葉だ。
凪は冷めてしまったコーヒーを飲み、カップをローテーブルの上に置いてから立ち上がった。そのまま、部屋の玄関に向かう。
「次、会う時に話せる範囲でいいわ。」
セナの言葉に反応することなく、凪は無言で立ち去った。
「千里眼…見たくないものまで視える異能…国に報告されたら即座に警察あたりの奴隷にされそうね。」
セナはそう、独り言を漏らした。
(現場を封鎖して検証なんてしなくても、こびりついた血痕も、剥がれ落ちた皮膚片すら視える。………わぁ、警察からしたらスゴク便利な奴隷じゃない。)
異能者は国に全てを管理される。その扱いは奴隷以下だ。セナは自由のない異能者、つまり、国に管理されている異能者にも会ったことがある。その異能者達は皆、意思などなく、殺してくれ、とセナに懇願した者もいた。
(姉さんはどうなったのかしら?逃げられたのか、それとも………嫌なこと思い出しちゃった。大丈夫。私は今、自由だから。)
セナもコーヒーを飲み終えると部屋を去った。
セナは裏の何でも屋だ。受けた依頼を片付けることが仕事だ。
(大丈夫。私はまだ大丈夫。だって、笑えてるもの。)
セナはいつも通り、人間が警戒できない微笑みを浮かべて闇夜に消えていった。
ケンのこと皆様は覚えていらっしゃいますでしょうか?まだ名前しか出ていないため、忘れている方もいらっしゃると思います。その時は8話を読み返してみてください。




