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酔狂〜紫硝の怪物達〜  作者: 紫月 凛
一章〜何でも屋と元若頭様の世話係〜
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 久し振りにユウリとルランのリアクションを楽しんだ日の翌日の午後、セナはサキの姿で光明学園高等部の正門からは死角になっている電柱の陰にいた。昨夜、ある男と話し、確認したいことができたため、わざわざ下校の時刻に合わせて出待ちをしているのだ。


(今夜は流石に寝たほうがいいわ…確か五日ぐらい前から寝てなかったわね。睡眠時間が常人より短くてもいいとはいえ、少しは寝とかないと。)


 セナは丸五日程、一睡もしていなかった。それでも普段と変わらぬ動きができているのは異能者だからだ。

 それは、異能覚醒時のことがトラウマとして脳に深く刻みつけられているからだ。そのため、無意識下であっても常に周囲を警戒し、睡眠も極端に浅くなる。脳が「眠り」という無防備な状態を「命の危機」と直結させてしまっているのだ。


(来た。今なら大丈夫ね。)


 セナはスマホを耳に当てながら電柱の陰から足音を立てて出る。


「うん。じゃ、また連絡するね。」


 通話を終え、スマホの画面に視線を落とす。丁度、目的の生徒とすれ違う時にぶつかった。


「キャッ?!ご、ごめんなさい…」


 セナが自然な動作でぶつかったことと、校門から少し離れた場所だったことで他の生徒には注目されていない。セナにぶつかられた生徒は紺の髪に切れ長の澄み渡る空のような瞳、と人間離れしているほど整った容姿をしている。


「大丈夫だ。怪我はないか?」


 男子生徒の言葉には感情が込められておらず、形だけのものだった。


「大丈夫です。オニーサンは?」


「問題ない。で、何の用だ。それと、先程まで()()()()だったんだ?」


 セナは自分の推測が合っていると確信し、口角を上げる。今回、わざわざ出待ちまでしてセナが待っていた男子生徒は凪だ。


(あの)(お詫び)があるから(にお茶でも)着いてこい(どうですか)?」


 セナは唇の動きと発音を分けて凪に返答した。凪はすぐにそれに気づき、同じように返す。


どこで(気にす)(るひつ)をするんだ(ようはない)


(うわっ、唇の動きと発音を分けるのそこそこ難しいことなのに。やっぱ凪ってバケモノ?)


 セナは自分のことは棚に上げて失礼なことを考える。


()前俺(いじょうぶ)()(らお)して(れは)(もう)()失礼(くぞおま)なことを(えも気を)(付けて)えてるな(かえれよ)


 セナが失礼なことを考えていると勘づいたのか、凪は彼女に文句を言う。しっかりと唇の動きと発音を分けて、だ。


そん(はい)なことな(ほんとう)いわよ(にごめ)印刷(んなさい)され()てる(をよ)住所(く見て)()場所に来なさ(ませんでした)(じゃ)またあとで(さようなら)。」


 セナは凪の文句を流してその場を立ち去った。

 セナは凪とぶつかった際、流れるような動作で彼の制服のブレザーの胸ポケットにカードを入れている。凪も当然のように、そのことに気づいているため、二人は別のルートでその住所の場所へと向かっている。

 そのカードの住所の場所にはセナが先に着いた。住所の建物―長年放置されているような空き家―に入ると、セナはキッチンで飲み物の準備を始める。


「ソファに座って待っていなさい。」


「気づいていたのか。気配に敏感だというのは本当らしいな。」


 コーヒーを淹れるセナの背後に、凪が音もなく立っていた。完全に気配を殺していたはずの自分を、振り返りもせずに言い当てた彼女に、凪は探るするように目を細める。


「この程度に気づけないようじゃ、私はもう死んでるわね。」


「それもそうか。」


 凪はセナの言葉に短く同意した。

 夏弦は異能を使って視認できなくなるほど気配を消すことができる。しかし、異能者やプロの暗殺者などであってもそれはできない。夏弦の異能だからこそ、気配を消して視認すら不可能にできたのだ。


(異能はその人の本質を引き出したモノなのよね。異能者の数だけ違う異能がある。だから面倒なのよ。)


 セナはコーヒーを淹れると凪の前のソファに座った。角砂糖やミルクが入った器も一緒にローテーブルの上に置いている。


「砂糖とミルクは好きに入れて。」


「話は何だ?それと、俺は今、お前をなんて呼べばいい?」


 凪はコーヒーを一口含んでからセナに問いを投げた。


「好きな名前で呼んで。ちなみに、この姿の時は今はサキって名乗ってるわ。貴方は…静空って呼べばいいのかしら?」


「好きにしろ。」


 凪の返答を聞きながら、セナもコーヒーを口にする。彼女の口角はそれはそれは愉しそうに、それこそ、獲物を前にした獣のように愉しげに弧を描いている。


「貴方の異能は千里眼(せんりがん)で、夏弦の異能は隠密ね?」 


「どうして分かった?」


 セナは前置きも何もなしに唐突に核心を突いた。

 先程、ぶつかったことでセナの目的はほぼ達成されている。しかし、彼女の推測と違う可能性も完全に捨てきることは無理だった。だから、セナは凪を招待したのだ。依頼達成のためなら彼女はどんな手段も躊躇いなく使う。その手段によって他人の傷を抉ることになったとしても、必要ならば彼女は使う。

 セナは凪の警戒するような眼差しを真正面から受け止めている。その顔にはいつも通り、人間が警戒できない微笑みを貼り付けていた。

ルビ(小さい字)のほうが発音です。唇の動きは本文(大きい字の方)です。


異能者は全員極端なショートスリーパー…なんて羨ましい体質なんだ…(皆さんはちゃんと寝ましょう)

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