76.町へ到着
「あっ、見てください! 町が見えてきましたよ!」
山を下っていくと、地平線辺りに町が見えてきた。それを見た瞬間――どっと体の力が抜けた。
「つ、着いた……。もう、山を進まなくていいんだ……」
「これだったら、修行をしていた方がマシだった……」
ここまでの道のりは想像絶するものだった。キャンピングカーで山を進むのが、これほど過酷だなんて思いもしなかった。
舗装なんてされていない山道は、岩や木の根があちこちに顔を出し、車体は絶え間なく揺れ続ける。ガタンッ、ゴトンッ、と身体が何度も跳ね上がり、そのたびに頭まで揺さぶられる。
急な上り坂の次は急な下り坂。高低差が激しすぎて、胃が浮いたり沈んだりを繰り返し、気持ち悪さが全然治まらない。
しかも、途中で魔物に襲われれば、ティナは容赦なくキャンピングカーごと突撃して撃退する。木々をなぎ倒し、魔物を吹き飛ばしながら突き進むたびに、車内は絶叫の嵐だった。
何度吐きそうになったか、もう数え切れない。……でも、それはまだ良かった。
一番精神にきたのは――崖を爆発の勢いで飛び越えたことだ。あの瞬間だけは、本気で人生が終わったと思った。
宙に浮くキャンピングカー。眼下に広がる断崖絶壁。そして、満面の笑みでハンドルを握るティナ。
……もう二度と経験したくない。私は助手席から後ろへ身を乗り出し、後部座席のサリサの手をぎゅっと握った。
「生きているって素晴らしいね……」
「あぁ……こんなに素晴らしいことだとは思わなかったのじゃ……」
二人で目に涙を浮かべながら、生還を喜び合う。その時だった。
ティナがにこにこと笑いながら、アクセルをぐっと踏み込んだ。
「じゃあ、ここからは勢いよく行きますね! 久しぶりにスピードが出せます!」
「ティ、ティナ!? まだ山! まだ山だから落ち着いて!」
「どうして、そんなに落ち着いて運転できるのじゃぁぁぁっ!?」
私たちの悲鳴が車内いっぱいに響き渡る。それとは対照的に、ティナは楽しそうに鼻歌を歌いながらハンドルを切り、キャンピングカーは勢いよく山道を駆け下りていった。
◇
キャンピングカーを降り、地面にしっかりと足を突く。それだけで、体が震えるように嬉しかった。
「ようやく、地面の上に立てた……。良かった、本当に何もなくて……」
「体はボロボロじゃけどな……生きているな」
今回の旅は怖い事ばかりだった。だから、改めて自分の足で地面の上に立つだけで、とんでもなく嬉しく感じる。
私とサリサは大きなため息をついている横で、ティナは鼻息荒くしてテンションが高かった。
「凄く楽しかったです! こんなに楽しい運転は初めてでした!」
「ま、満足した?」
「はい、大満足です!」
「じゃあ、これからは安全運転で……」
「もっと、違う荒い道を行きたくなりました!」
……ダメだ、ティナにこれ以上荒い道を運転させるわけにはいかない。
「帰りは山の下の方を通って行こうか。戦争に巻き込まれないくらいに」
「それがいい、いや……それしかダメじゃ」
「でも、そう上手くいくでしょうか?」
現実逃避をしているのに、すぐにティナが現実に戻してくる。戦争をしている平地を行くのは不安がある。だけど、山際だったら大丈夫じゃないだろうか?
とにかく、同じ道で帰らないようにする。帰り道にはそれがいい。
「じゃあ、町に入ろうか」
そう言って、私たちは離れた位置から町を目指す。まだ、キャンピングカーに乗っていた時の振動が残っていて、ちょっと気持ちが悪い。
そのままの状態で私たちは町へと向かっていった。
◇
町に入った私たちはすぐに領主の館へと向かった。その場所に到着すると、門が閉められていて門兵が立っていた。
「なんだ、君たちは。用がないなら立ち去りなさい」
「えっと、この手紙を預かってきたので、領主様に渡してくれませんか?」
「なんだと? ……こ、これは! レイベック領の! ちょっと、待っていてくれ!」
手紙を渡すと、門兵は驚いた顔をした。門を開け、館へと走っていった。
それからしばらく待っていると、門兵がメイドを連れて戻ってきた。
「君たちを客人として迎える。このメイドについていきなさい」
どうやら、話が通じたようだ。私たちはメイドについていき、領主の館の中へと入って行った。
豪華な廊下を歩き、豪華な応接室に通された。そこで、お茶やお菓子を差し出され、待っていると――扉が開いた。
「失礼、遅れたな」
現れたのは中年の男性。しっかりとしたスーツを着込んで、いかにも領主のような恰好をしている。
その人が私たちの前のソファーに座ると、早速話題に出してきた。
「挨拶が短くてすまないが……早速本題に入らせてもらう。本当に布地を持ってきたのか?」
「はい、持ってきました。布地はこのサリサのスキルの中に保管してあります」
「そういうスキルがあるとは知っていたが、まさかこの目にかかれるとはな。悪いが、布地を見せてくれないか。こっちに来てくれ」
領主は立ち上がると、足早に部屋を出ていく。私たちもその後を追っていくと、一つの扉の前に到着した。その扉を開くと、中は広いホールになっていた。
「ここだったら、布地を取り出すことが出来るだろう。出してくれないか?」
「はい。サリサ、お願い」
「うむ」
サリサがホールに一歩踏み出すと、手を掲げた。そして、一瞬でホールに布地を取り出した。
「おぉっ!? こ、これは!」
一瞬で出てきた布地を見て、領主は驚いた様子だった。
「凄い……本物だ。どれもレイベック領で作られた布地に間違いない。隣の領の戦争で入らなくなってしまった布地がこんなに……あははははっ!」
布地を見て驚いていた領主が突然笑い出した。
「お前たちのお陰だ! 悪路でこんなに早く移動して届けてくれたようだな。その功績、賞賛に値する。改めて、届けてくれて感謝する!」
領主は私たちの前に来て、笑顔でそう言った。それだけでも、ここまで頑張ってきたかいがあるというもの。
私たちは顔を見合わせて、喜び合った。




