74.またまた御冗談を
停止したキャンピングカーから下りてみる。そして、その外観を確認すると――。
「わー……なんかグロテスクになっちゃったね」
「凄く、世紀末感があるのう……」
「私のキャンピングカー……」
迫りくる猿の魔物を口では言えないくらいに風魔法で切り刻んだ結果、車体は血と肉片と土埃が密着して、とんでもないことになっていた。
その姿を見て、正気に戻ったティナが分かりやすく落ち込んでいる。まぁ、あれだけはっちゃければ、こうなることは分かっていたけれど。
「流石にこのまま進むと危ないね。血の匂いで魔物が寄ってきちゃう」
「一度綺麗にするしかないか」
「うん、それがいい。ちょっと待って、今、ネットショッピングから高圧洗浄機を買うから」
ネットショッピングの画面を開くと、検索機能を使う。すると、色々な高圧洗浄機が出てきた。
「今後もキャンピングカーを洗うことになるから、そこそこ良い物を買いたいなー」
「あ、ありがとうございます! ぜひ、良いのを買ってください!」
「……また同じことになりそうじゃからな」
……絶対にまた同じことをする。このティナならやりかねない。血まみれのキャンピングカーのままで乗るのはちょっと、精神的にキツイし……。
「うーん、二万から三万辺りが妥当みたい。あっ、この二万四千九百八十円のもの丁度いいかも。よし、これを買おう」
色々な高圧洗浄機の中から良い物を見つけた。すぐに購入ボタンを押すと、すぐに高圧洗浄機が届いた。
「ほう、これが高圧洗浄機か。で、何が出来るんじゃ?」
「ノズルから勢いよく水が出て、その勢いで汚れを落としてくれるよ」
「だったら、この汚れもあっという間に取ってくれそうですね!」
実際に見てもらった方がいいだろう。私は高圧洗浄機の水道ホースをキッチンの蛇口にくっ付ける。そして、外に戻るとノズルを持って車体に向けて、水を噴射した。
すると、大量の水が凄い勢いで車体に飛び散り、こびりついた汚れを洗い流していく。
「こうやって、水を出すんだよ。ほら、汚れが落ちているでしょ?」
「おぉ! これは楽でいいのじゃ! 手で洗う手間が省けるぞ!」
「あ、あの……車体には傷がつかないのでしょうか?」
「大丈夫。こんなんじゃ、傷はつかないから」
そのまま車体を綺麗に洗っていく。だけど、やっぱり血と肉片があるから、グロテスクだ。あんまり、見ていられないというか……。
「私にもやらせてください! 自分のキャンピングカーを自分の手で綺麗にしてあげたいんです!」
「うん、いいよ。かなり強いからしっかり持ってね」
「はい!」
そのままノズルを渡すと、ティナは覚束ない動きでキャンピングカーの汚れを落としていく。最初は真剣に汚れを洗い流していたが、だんだん目が輝いてきた。
「……た、楽しいです! 自分のキャンピングカーを洗うってこんなに楽しいんですね! とっても、充足感があります!」
「まぁ、車好きの人は洗うのが好きっていうし」
「じゃが、こやつは汚すのは厭わないみたいじゃが……」
「まぁ、色んな人がいるってことで」
鼻歌を歌いながら洗車をしているティナを見ながら、ひと時の休憩を挟んだ。
◇
キャンピングカーが綺麗になると、また山を駆け上っていった。激しい揺れに耐えながら山を進んでいくと――、その途中で山が途切れていた。
「あちゃー……。ここはいけそうにないね。違う場所を進まなくっちゃ」
「どこに行くのじゃ? まさか、下るのか? 面倒じゃないか?」
「……あっ! 見てください! 山の上に橋らしきものが見えます」
「本当? そっちが近いみたいだし、ちょっと行ってみようよ」
ティナが見つけた橋。私たちはそこに望みをかけて、山を登っていった。そして、その場所に辿り着き、キャンピングカーから下りた。
「こ、これは……通れるのかな……」
見た目な結構頑丈な木製の吊り橋。幅も十分にあって、キャンピングカーが通れそうな感じだ。
だけど、耐えられるかは分からない。通った瞬間、縄が切れて谷底に落ちるという展開もありうる。
「うーん、難しいかなぁ。安全をとって、山を下った方がいいかなぁ……」
「今から下るのは面倒じゃないか? ここは強行突破でなんとかなるじゃろ」
「よ、良くそんなことが言えるね。落ちたら一巻の終わりだよ」
「スリリングで良かろう!」
よ、良かろうじゃない! サリサは時々大胆すぎるんだよ!
「……あっ。この問題を解決する方法を思いつきました」
「えっ? ほ、本当?」
「はい。とりあえず、キャンピングカーに戻りましょう」
ティナが何かを思いついた? 不思議に思いながらも、キャンピングカーに戻ってみた。
「それで、どうするの? やっぱり、下に行って道を探す」
「いえ、ここで大丈夫です。間の空間が一番狭いですから」
「何をしようというんじゃ?」
私とサリサが不思議そうに首を傾げると、ティナがこちらを向く。目を輝かせて。
「動画で見た、爆発の衝撃で車を飛ばします」
フンス、と鼻息を荒くした。私たちはしばらく無言のままでいると――。
「あはははははっ! ティナは何を言っているの? それは動画だけの話だって!」
「はははははっ! そんなことが出来るはずがなかろう!」
いやいや、ティナは冗談が上手いなぁ。動画のような事が出来るはずがないのに、夢を見ちゃって!
だけど、私たちが笑っていると――キャンピングカ―が勢いよくバックしていく。谷が離れていっている。これは、助走をする準備?
そう思うと、全身が震えた。……ティナ、マジでやろうとしている!
「ティ、ティ、ティ……ティナ? マジで、マジで言っているの?」
「んー……もうちょっとでしょうか?」
「は、は、はぁ!? お、おいおいおいおい! ティナー!?」
かなり谷から離れたところで、キャンピングカーは止まった。
車内が、しんと静まり返る。さっきまで冗談だと思って笑っていた空気は、もうどこにもなかった。聞こえるのは、アイドリング音だけ。
私は助手席で、ごくりと唾を飲み込む。……まずい。ティナ、本気だ。本気で、あの谷を飛び越えるつもりなんだ。




