73.はっちゃけティナ
山道――いや、山道と呼べるようなものすら存在しない斜面を、キャンピングカーは力強く駆け上がっていく。
ゴゴゴゴゴゴッ――!
進むごとに車体が大きく揺れた。そして、自分の体が飛び上がる。
「ひゃっ!」
思わず短い悲鳴が漏れる。今まで草原や街道くらいは走ったことがある。でも、こんな場所を走るのは初めてだった。
車輪が大きな岩を乗り越えるたびに車体が持ち上がり、着地すると全身が跳ねる。地面は平らな場所などほとんどなく、小石や岩、木の根があちこちに顔を出している。
ゴトンッ!
ガタンッ!
ドンッ!
そのたびに体が上下へ揺さぶられ、座席に深く座っていてもお尻が少し浮いてしまう。
「うぅぅ……」
これは思っていた以上だ。ティナの体を心配していたけれど、まさか自分までこんなに揺さぶられるとは思わなかった。
それでも、キャンピングカーは止まらない。
高い車高のおかげか、大きな岩も難なく乗り越えていく。四輪がしっかりと地面を掴み、滑りそうな斜面でもぐんぐん前へ進んでいく。
普通の馬車なら、とっくに横転していてもおかしくない道だ。改めて、この車の凄さを実感する。
……でも、運転席の方をちらりと見る。
「すごいです……! これですよ、これ! この振動! この路面! 最高です! 動画っで見たママですね!」
ティナは目を輝かせながらハンドルを握っていた。それはもう、すんごく嬉しそうな顔をして。
さっきまで町で落ち着いて話していた人と、本当に同じ人なんだろうか。段差を見つけるたびに口元が緩み、坂道を登るたびに嬉しそうな声を漏らしている。
なんというか……遊園地に来た子どもみたいだ。
「ティ、ティナ……あまり無茶はしないでね?」
「大丈夫です! ちゃんと車の性能を見ながら走ってますから! っていうか、私のキャンピングカーの性能はこんなものじゃないですよ! もっと、凄いところを見せてあげます!」
あー……返事は元気いっぱい。だけど、その声が妙に弾んでいるのが逆に怖い。
本当に大丈夫……なのかな?そんなことを考えた直後だった。
ドン!
車体の上に何かが乗った衝撃が走った。
「なんじゃ?」
後部座席に座っていたサリサが窓を開けて、身を乗り出す。上を見ると――。
「いかん、魔物じゃ!」
すぐに体を戻し、車内に戻った。やっぱり、人がいない山間部には魔物がいるらしい。
ちらりと外を見てみれば、木の上を移動している猿の魔物を姿が見えた。ものすごいスピードで飛び、キャンピングカーよりも先回りしているように見える。
「もしかして、キャンピングカーを攻撃してくるんじゃない? あんなに大量に来たら、上手く走れないよ」
「だったら、外に出て戦うしかあるまい。じゃが、あの数……ちと骨が折れるのう」
数は十や二十じゃない。五十は軽く超える数がいる。どれだけ強いのか分からない相手だからこそ、この数は驚異的だ。
その数に対応出来るのか。そう不安に思っていると――。
「大丈夫です。キャンピングカーから下りなくても、いけます」
「な、何を言っとるんじゃ? 奴らはキャンピングカーの上に乗ってくるんじゃぞ? キャンピングカーで轢き殺すことは出来んぞ」
「そうだよ。あっという間にキャンピングカーが囲まれて、身動きが取れなくなるよ。そうなると、危険だよ」
「キャンピングカーで轢き殺すことはしません。魔法を使います」
……魔法? もしかして、以前やっていた魔法をキャンピングカーにまとわせる方法を取るんだろうか?
「見ててください。……むん!」
すると、ティナの魔法が発動した。キャンピングカーを守るように風の刃が吹き荒れている。
「これで、魔物が襲ってきても、切り刻めます!」
「そ、そんな簡単に行くかなぁ……」
「見ててください。少し、速度を落としますね」
そう言うと、ティナはキャンピングカーの速度を落とした。すると、それを待っていた猿の魔物が一斉に飛び掛かってきた。
物凄い数だ。やっぱり、外に出て対応したほうが――。
そう思っていると、キャンピングカーの周りに吹き荒れていた風の刃が猿の魔物を次々と切り刻んでいった。
「う、うわー……」
「こ、これは……動画で見たスプラッタ映像そのものじゃ……」
キャンピングカーの外では恐ろしいほどの風の刃で、猿の魔物が切り刻まれている。その血がキャンピングカーに降り注ぎ、窓が真っ赤に染まる。
外では猿の魔物の悲鳴が轟き、まるでホラー映画のような臨場感がある。まるで、自分たちがB級映画に入り込んだような恐怖だ。
「キャンピングカーって凄いですね!」
ティナは陽気に声を出して、呑気にウインドウォッシャーを出してワイパーを動かしていた。いや、こっちの方がホラーだよ!
「じゃあ、このまま行きますね! ふふっ、動画で見たような事が出来て楽しいです!」
……見る動画を厳選した方がいいんじゃないだろうか? そんな事を思いながら、外で切り刻まれている魔物を見ていた。




