70.テスト
翌日。約束の時間より少し早く町の外へ到着すると、すでに執事が待っていた。
「皆さま、おはようございます」
初老の執事は変わらぬ穏やかな笑みを浮かべ、一礼する。その周囲には、昨日顔を合わせた行商人たちと冒険者パーティーも集まっていた。
「時間通りですね。それでは皆さま、お集まりいただきましたので、早速テストの説明をさせていただきます」
執事が一歩前へ出る。その隣には、木箱が山のように積み上げられていた。
大きな箱、小さな箱、細長い箱まで様々で、その数は数十個はあるだろう。これだけの量があれば、一度に運ぶのは苦労しそうだ。
「こちらが今回運んでいただく荷物です。ルールは非常に簡単です。この荷物を積み込み、指定された目的地まで運搬してください」
そう言って、街道の先を指差した。
「あちらへ五キロほど進んだ場所に立会人を配置しております。そこで荷物の到着を確認し、最も早く荷物を届けた組を勝者といたします」
つまり――荷物を積み込む速さ。運ぶ速さ。そして、目的地へ到着するまでの時間。そのすべてを競うということだ。
「もちろん、不正行為は禁止です。他の組の妨害なども失格とさせていただきます」
三組とも黙って頷く。シンプルだからこそ、ごまかしの利かない勝負だ。
「質問はございますか?」
誰も手を挙げない。ルールがシンプルだったため、誰でも理解出来たからだ。
「メル、これだったら勝てるぞ! 絶対にわらわたちの勝利じゃ!」
「面倒なルールじゃなくて良かったです。純粋な競争だからこそ、勝てそうです」
「うん、このルールだと私たち勝てそうだね」
これは、勝ったも同然だ。荷物を収納して、あとはキャンピングカーを飛ばすだけで勝てる。
三人で楽しそうに話していると――。
「いやいや、勝てるも何も、運搬用の馬車がないじゃないか」
声をかけてきたのは、昨日の行商人の代表だった。呆れたように肩をすくめながら、私たちの後ろを見渡す。
「馬も荷車もなし。まさか、その荷物を担いで運ぶつもりじゃないよな?」
その言葉に、後ろの行商人たちも苦笑する。
「これだけの荷物だぞ?」
「一つ二つならともかく、全部運ぶとなれば馬車は必須だ」
「俺たちは何年も運送をしてきたが、馬車なしで勝負になるなんて聞いたことがねぇ」
行商人たちがそんな風に見下してきた。すると、今度は冒険者パーティーの代表も近づいてくる。腕を組み、苦笑を浮かべながら口を開く。
「荷物を運ぶ依頼なんだから、まず必要なのは運搬手段だ。それすら用意してこないとは思わなかったな」
後ろにいた冒険者たちも次々と言葉を続ける。
「女の子三人で持ち上げられるのか?」
「積み込みだけで何十分もかかるんじゃないか?」
「五キロ先まで運ぶ前に力尽きそうだな」
どっと笑いが起こる。まるで、私たちに力がないと言っているようだ。
その時、行商人の代表は顎をさすりながら、諭すような口調で言った。
「嬢ちゃんたち、悪いことは言わねぇ。ここで辞退した方がいい。勝負ってのは、始める前から決まってることもある。馬車もない時点で、お前たちに勝ち目はない」
その言葉に乗っかるように冒険者の代表も苦笑しながら頷く。
「俺たちは運搬用の馬車を四台用意してきた。護衛も配置済みだ。準備は万全ってわけだ。そっちは三人だけで、しかも馬車なし」
フッと鼻で笑いながら、肩をすくめる。
「勝負になるとは思えないな」
始めから私たちをライバルとは見ていないみたいだ。すると、私たち抜きで冒険者パーティーと行商人が顔を見合って自信満々に笑った。
「この依頼は俺たちがもらう。運搬なら本職に敵うわけがない。依頼主も、誰に任せるべきかすぐ分かるさ」
冒険者たちも負けじと笑みを浮かべる。
「いや、この勝負は俺たちだ。速さも護衛も、全部ひっくるめれば一番なのは俺たちだからな。これは俺たちの勝負になりそうだな」
二組は互いにライバル視こそしているものの、私たちを勝負相手とは思っていないらしい。まるで、勝つのは自分たちのどちらかだと確信しているようだった。
すると、背後から気迫を感じた。振り向くと、サリサもティナも怒ったように表情を固くしている。そりゃあ、これだけ言われたら悔しいよね。私だって悔しい。
「それでは――始めてください!」
執事がそういうと、みんなが一斉に動き出した。その中でもサリサが一番早く荷物の前に行くと――アイテムボックスを発動させ、一瞬で荷物を収納した。
「「「な、な、な……何ィィィィィっ!?」」」
それを見ていた、みんなが驚く。だけど、私たちの力はこんなもんじゃない。
「キャンピングカー!」
ティナがすぐにキャンピングカーを呼び寄せると、一瞬でキャンピングカーが現れた。
「なんだそれ!? どこから出した!?」
「荷物、荷物はどこに行った?!」
行商人たちも冒険者パーティーも私たちを見て、信じられない様子で叫んでいた。だけど、そんなものに付き合っている暇はない。
私たちはすぐにキャンピングカーに乗り込み、ティナはエンジンをかけた。そして、すぐにアクセルを踏むと――馬車よりも早くキャンピングカーが発進した。
「「「な、な、な……なんだそれーーーーーっ!!」」」
後方からみんなが叫ぶ声がする。バックミラーを見てみると、行商人たちも冒険者パーティーも何もせずに突っ立ったままだった。
「はっはっはっ! ざまぁっ!」
「これは勝ったでしょう」
「まぁ、当然」
キャンピングカーの中では私たちの勝利の声が広がった。
そして――このテストはあっさりと私たちの勝ちになった。




