71.正式な依頼
五キロ先の立会人に荷物を届けた私たちは、証明書を受け取ってキャンピングカーで引き返した。
来た道を走ること十数分。スタート地点へ戻ると、執事は驚いたような、それでいてどこか納得したような笑みを浮かべていた。
「お帰りなさいませ」
「戻りました! これが証明です!」
キャンピングカーを降りると、私たちは証明書を差し出す。すると、執事は深々と一礼する。
「証明書を受け取りました。……なるほど、荷物はすべて無事到着。時間も文句なしの一位でした」
「「「やったー!」」」
にっこりと笑う執事を前にして、思わず三人で顔を見合わせて喜び合う。
アイテムボックスとキャンピングカー。二つの力を組み合わせれば、こういう依頼では圧倒的な強さを発揮できる。
正直、勝てるとは思っていた。でも実際に勝利を告げられると、やっぱり嬉しい。
ふと視線を横へ向けると、そこには行商人たちと冒険者パーティーが立っていた。誰一人として口を開かない。
さっきまであれほど自信満々だった表情は消え失せ、呆然とした顔で私たちを見つめている。まるで、何が起こったのか理解できていないようだった。
荷物も積んでいない。馬も走らせていない。ただ立ち尽くしているだけ。それほどまでに、私たちの勝ち方は予想外だったのだろう。
すると、サリサが腕を組み、ふふんと胸を張った。
「どうじゃ! わらわたちを見くびった結果じゃ!」
得意げに胸を張りながら、行商人たちへ歩み寄る。
「勝てる相手じゃと思っておった相手に負けた気分はどうじゃ? さっきまであれだけ自信満々じゃったのにのう!」
行商人たちは何も言い返せない。その様子を見たティナも、一歩前へ出る。
「私たちはあなたたちよりも早く積み込みを終え、誰よりも早く運搬を終えました」
静かな口調だった。けれど、その言葉は鋭く胸へ刺さる。
「運搬のプロだとおっしゃっていましたよね。それなのに、私たちに完敗しました。今まで、どんな仕事をしてきたんですか?」
その一言で、二組は分かりやすく揃って肩を落とした。さっきまでの威勢はもうどこにもない。
行商人の代表は頭をかきながら、大きく息を吐く。
「……完敗だ。まさか、あんな方法があるなんて思いもしなかった」
苦笑しながら、こちらへ頭を下げる。
「悪かった。見た目だけで判断してしまった。嬢ちゃんたちは、本当に実力があったんだな」
その様子を見ていた冒険者パーティーの代表も続いて頭を下げる。
「俺たちも同じだ。経験だけで勝てると思い込んでいた。力を見くびって、見下して笑ってしまった」
悔しそうに笑いながら、素直に頭を下げる。
「悪かった」
その姿を見て、私の胸の中にあったわだかまりも、少しだけ軽くなった。
最初は悔しかった。子供だから。女の子だから。そんな理由だけで、最初から勝負にもならないと決めつけられた。
でも、だからこそ結果で見返せたことが嬉しい。相手を言い負かすより、実力で認めてもらう方がずっと気持ちがいい。
私は二人に向かって、小さく笑いかけた。
「分かってもらえたなら、それで十分だよ。ね?」
「うむうむ、その通りじゃ!」
「分かってもらえて良かったです」
最後は和やかなムードになって、気持ちよく終わることが出来た。
◇
その後、解散した私たちは執事に連れられて領主の館までやってきた。豪華な内装の屋敷に入って、なんだか落ち着かない。
「皆さま、よく来てくださいました。領主様はお忙しい身でして、皆さまに会うことは叶いません。どうか、お許しください」
そう前置きをして、執事は目の前のテーブルに地図を広げた。
「お願いしたい依頼について説明させていただきます」
執事は地図の上に指を置き、一つの領地を示した。
「まず、こちらが我が領です。そして、こちらが交易相手の領になります」
地図を見る限り、それほど離れてはいない。馬車でも十数日あれば往復できそうな距離だ。
「我が領とこの領は、長年にわたり交易を続けてまいりました。我が領では質の良い布製品を生産しております。一方、向こうの領では良質な鉄鉱石や鉄製品が採れます。互いに不足しているものを補い合うことで、両領は共に発展してまいりました」
なるほど、布と鉄を交換する交易か。どちらも生活や産業には欠かせないものだ。
「ですが、両領の間には別の領地がございます」
そこを軽く叩く。
「数か月前、その領地で領主同士の争いが始まりました。現在も戦闘が続いており、街道は封鎖。商人や旅人は立ち入ることができません」
つまり、いつもの交易路が使えなくなったということか。
「その結果、我が領と交易相手の領は物流を断たれてしまいました」
執事は小さく息をつく。
「我が領では鉄資源が不足し始めております。農具や工具の製造、建築資材の確保にも影響が出始めており、このままでは領民の生活にも支障が出かねません。逆に相手の領では、我が領の布製品が届かず、衣類や生活用品の不足が深刻化していると聞いております」
交易というのは、ただお金を稼ぐだけじゃない。人々の生活そのものを支えているんだね。
「もちろん、新たな交易相手を探すことも検討いたしました。しかし、品質や距離、価格などを考えると、長年築き上げてきたこの交易に代わるものはありません」
だからこそ、どうしても交易を再開したい。その思いが伝わってくる。
「しかし、先ほど申し上げた通り、街道を利用することはできません」
執事は地図の端へ指を動かした。そこには、大きく山が描かれている。
「そこで皆さまにお願いしたいのです。通常の街道ではなく、この山間部を通り、交易相手の領まで荷物を運んでいただきたいのです」
山越え……だから普通の運送業者では難しかったのか。
「我が領からは布製品を運び、帰りには相手の領から鉄鉱石や鉄製品を運んでいただきます。この往復をしていただきたく、お願いしたいと考えております」
執事は私たちへ向き直り、静かに頭を下げた。
「危険を伴う依頼であることは承知しております。しかし、皆さまのお力であれば成し遂げられると判断し、この依頼をご相談させていただきました」
とても難しい依頼だ。だけど、諦めるつもりはない。
「私たちに任せてください。必ず、品物を届けます」




