69.依頼
「皆さま、お集まりくださりありがとうございます」
執事の初老の男性が、穏やかな笑みを浮かべながら深々と一礼した。
今、私たちはオークション会場の一角に設けられた待合スペースに集められていた。
見渡すと、私たち以外にも二組の依頼希望者がいる。互いに相手を値踏みするような視線を交わし、静かな空間には張り詰めた空気が漂っていた。
つまり、この依頼を狙っているのは私たちだけじゃない。
「本日は三組の方にお集まりいただきました。依頼内容の説明に入る前に、皆さま、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか」
執事に促され、一番端に立っていた一団の代表と思われる男性が一歩前へ出た。
「俺たちは各地を巡る行商人だ」
日に焼けた顔に自信満々の笑みを浮かべる。
「日用品から食料、魔道具まで何でも扱っていてな。馬車を何台も連ねて王都と地方を行き来している。荷物を安全に、しかもできるだけ早く届けるのが俺たちの仕事だ」
男性は後ろに並ぶ仲間たちへ親指を向けた。
「護衛役も荷運び役も揃っているし、長旅にも慣れている。街道の状況も把握しているから、最短で目的地まで運べる自信がある。この依頼なら、俺たち以上に向いている連中はいないだろう」
行商人か……。これは、とんでもないライバルかもしれない。
大量の荷物を扱うことに慣れているし、輸送の知識も豊富。移動速度だって、私たちより速い可能性がある。
「次は俺たちだな」
続いて前へ出たのは、鎧姿の男性だった。
後ろには十人近い冒険者が並び、剣士や槍使い、弓使い、魔法使いなど、それぞれ異なる装備を身につけている。ひと目見ただけで、経験豊富な大規模パーティーだと分かった。
「俺たちは大規模な冒険者パーティーだ。普段は大型魔物の討伐や集団依頼を専門に請け負っている」
男性は胸を張って続ける。
「狩った魔物は、その場で解体して素材を持ち帰る。何十体分もの素材を運ぶことも珍しくない。荷運び専門の仲間もいるから、大量の荷物を運搬するのは慣れたもんだ」
さらに腰の剣へ手を添えた。
「もちろん護衛も任せろ。街道で魔物が現れようが盗賊が襲ってこようが返り討ちだ。輸送も護衛も、一度にこなせるのが俺たちの強みだな」
……なるほど。これも相当な強敵だ。人数が多いから運搬力は十分。しかも魔物への対処能力は私たちを大きく上回っている。
どちらの組も、この依頼にうってつけの実績を持っていた。
すると、執事がこちらに視線を向けた。
「えっと、冒険者をしています。荷物の運搬と素早く運ぶ仕事はスキルでしようと思います」
「ほう……そのスキルとはなんですか?」
「あんまり人には言えないので、内密にしたいです」
素直にそう答えた瞬間――。
「ぶっ、はははっ!」
行商人の一人が腹を抱えて笑い出した。
「おいおい、聞いたか? 切り札だから秘密にしたいんだとよ」
「秘密ってことは、大したもんじゃないから言えないだけじゃねぇのか?」
「ははっ、それなら納得だ!」
一団は顔を見合わせて笑い合う。代表の男性も肩をすくめ、大げさにため息をついた。
「嬢ちゃん。こういう依頼はな、夢や勢いで受けるもんじゃない。荷物を運ぶってのは体力も経験もいる仕事なんだ」
「荷車は引いたことがあるのか?」
「街道を何日も走り続けた経験は?」
「馬車がぬかるみにハマった時の対処法は知ってるか?」
矢継ぎ早に質問を投げかけると、答えを待つこともなく鼻で笑った。
「まあ、答えられないだろうな」
「俺たちは何年も運送を生業にしてきた。素人が思いつきで勝てるほど甘い世界じゃない」
今度は冒険者パーティーの方からも失笑が漏れる。
「秘密のスキル、ねぇ」
鎧姿の男が苦笑しながら頭をかいた。
「俺たちも長年冒険者をやってるが、本当にすごい奴ほど自分の実績を語れるもんだ」
「秘密にします、なんて言葉は、自信のない奴の常套句だ」
後ろの冒険者たちも口々に言う。
「護衛はどうするんだ?」
「魔物が十匹、二十匹出ても、その秘密のスキルで何とかなるのか?」
「荷物を守れなきゃ依頼は失敗だぞ」
「人数も少ないし、途中で荷物を放り出して逃げるのがオチじゃないか?」
「悪いことは言わねぇ。今のうちに辞退した方が恥をかかずに済むぞ」
周囲からくすくすと笑い声が広がる。どうやら、私たちは最初から相手にされていないらしい。
行商人の代表は腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、若いうちは失敗も勉強だ。現実ってやつを知るには、ちょうどいい依頼かもしれねぇな」
冒険者の代表も肩をすくめる。
「依頼主の時間を無駄にしないでくれよ。俺たちは遊びじゃなく、仕事で来てるんだからな」
これは、完全に見下されている。まぁ、こんな子供がスキルでどうにかしますって言っても信じてくれないか。
まぁ、でも――負ける気がしない。
「お話はそれまでにしましょう。もしかしたら、凄いスキルかもしれませんからね。でも、このままだと誰に頼んだらいいのか明確ではありませんので、テストをさせていただきます」
……テスト? まぁ、それが一番いいだろうね。
「明日、午前九時に荷物を運ぶのに必要なものを持って、町の外に集まってください。その後、荷物運びをしてもらい、一番にゴールをした人たちに依頼をしようと思います」
なるほど、競争をさせる気か。それだったら分かりやすい。
「明日か……絶対に負けないのじゃ!」
「はい、勝ちましょう!」
「うん、頑張って勝とう!」
こうして、私たちは翌日テストをすることになった。絶対に負けない、という強い気持ちを持って。




