64.充実した休息とアイテムボックスの凄さ
ギュッと木に紐を括りつける。強く引っ張って取れないか確認したら終わりだ。
「よし、ハンモックはこれで完成!」
木と木の間に括りつけた、色とりどりのハンモック。ゆらゆらと揺れていて、この上で寝転がるのはとても気持ちよさそうだ。
「これで準備が完成したな。早速、横になってみるのじゃ!」
「これは気持ちよさそうですね」
二人はハンモックを見て上機嫌。その手にはハンモックの中で使う物をしっかりと握っている。
ティナは車のグッツを作るため、刺繍用品を手にしている。色にこだわりがあるのか、様々な色の糸を買っていた。
その一方でサリサはというと――。
「サリサ、本当に食べるの? そんなに大量のお菓子とコーラ」
「夕食、食べられなくなりますよ?」
「こ、これはわらわのお小遣いで買ったものじゃ! 使い方はわらわの勝手じゃろう!」
惰眠をむさぼると言っていたサリサだったが、お菓子とコーラもむさぼるらしい。ポテトチップスやチョコスナックなど、様々な嗜好品を抱えている。
「そんなに食べると太るよ?」
「それを食べてから寝るんですよね? 体に悪いですよ?」
「ふふん。わらわの運動量は高いから、すぐに消化してしまうぞ。それに動画ではとても気持ちのいい行いだと言っていったじゃろう。わらわもそれを体験したいのじゃ!」
……怠惰だ、怠惰すぎる。でも、ちょっとはそのやり方、憧れちゃうよね。色んな事を無視したら。
「メルは本を読むんですね」
「うん。ゆっくりと過ごすにはいいと思って。でも、一つ買っちゃうと、次も買いたくなっちゃうんだよねー」
「メルも嵌ると抜け出せないタイプか!」
一つ買うと、あれもこれもと買いたくなる。歯止めが付けばいいと思うんだけど、それも中々……。
みんな使う物を持つと、ハンモックの上に乗った。すると、ハンモックが左右に優しく揺れて気持ちがいい。そして、布地の心地よさと体にフィットする。
「これ、いいね! 横になると、もっと気持ちよさそう」
「ハンモックってこんなに気持ちがいいんですね。動画の登場人物になった気分です」
「これは、よく眠れそうじゃ! じゃが、その前に――食って飲むぞ!」
ハンモックの揺れに体を預けていると、すぐにサリサがお菓子とコーラを食べ始めた。あれだけ食べて飲んだ後に寝るなんて、なんて罪深い……。
「じゃあ、私たちものんびり過ごしましょう」
「そうだね」
サリサが食べている姿を横目に見て、私たちは自分のことに集中する。ティナはすぐに針を布で刺し始め、私はハンモックに寝転がった。
体が優しく包み込まれて、これは他にはない感触だ。ベッドにはない独特の感触は夢中になってしまいそうだ。
そして、寝転がりながら、本を開く。読み始めると、すぐに物語の世界へと意識が引き込まれていった。
ハンモックはゆっくりと揺れている。体を少し動かすと左右へと小さく揺れ、その動きが不思議と心を落ち着かせてくれた。
頭上を見上げれば、枝を大きく広げた木々が空を覆っている。青空は葉の隙間から少しだけ見える程度だ。
太陽の光は葉によって和らげられ、木漏れ日となって地面に落ちていた。
明るすぎず、暗すぎず。本を読むにはちょうどいい。
「ふぅ……」
思わず息が漏れる。木陰の中は涼しく、日中の熱気もほとんど感じない。優しい風が頬を撫でていくたびに、葉がさらさらと音を立てた。
鳥のさえずりも聞こえる。遠くでは虫の鳴き声も聞こえていた。自然の音だけが静かに流れていて、なんだか心まで洗われていくようだった。
私は本のページをめくる。心地よい風。柔らかく体を支えるハンモック。優しい木漏れ日。静かな自然の音。
全てが読書の邪魔をするどころか、より深く物語へ没頭させてくれる。気付けばページをめくる手が止まらなくなっていた。
主人公が困難に立ち向かう場面では思わず息を呑み、仲間との再会では胸が温かくなる。物語の中へ沈み込むような感覚。
それがとても気持ちいい。
「……これ、最高かも」
ぽつりと呟く。隣を見てみると、ティナが穏やかな顔をして布を針で刺し、お菓子とコーラを食べ終わったサリサが堕落して寝ている。
穏やかな時間はゆっくりと流れ続け、気付けば午後のひとときは、あっという間に過ぎていくのだった。
◇
ふと、意識が戻った。そういえば、小説を読んでいて、気持ちよくなって眠ってしまったんだ。
目をこすり起き上がってみると、そこは夕日が差し込む森の中だった。
「んー! 良く寝たー!」
小一時間くらいだろうか。少し寝ただけで、頭の中がさっぱりとなった。隣を見てみると、いつのまにかティナも寝ていた。
サリサはというと、ハンモックから手足を出して、とても気持ちよさそうに寝入っていている。
流石にそろそろ起こさないと。ハンモックから降りた私は二人に近づき、揺すって起こした。すると、二人は気持ちよさそうに背伸びをして起きてきた。
「んー! こんなに昼寝をしたのは久しぶりじゃ!」
「私もつい寝てしまいました。気持ちよかったです」
そう言って二人がハンモックから降りると、紐を外してハンモックを畳む。
「また、ハンモックに乗って、休息しましょうね」
「そうだね。でも、その度に本が増えていくが……置き場所に困る」
休息が増えるのはいいけれど、その度に本を買っていたら置き場所に困ってしまう。それを考えると、思うように買えなくなる。
「何を言っておるんじゃ。わらわのアイテムボックスがあるじゃろ」
当たり前のようにサリサが言葉を口にした。……そうだ、サリサにはアイテムボックスのスキルがある。
そうだ、そうだよ。部屋を狭くしなくても、そこに収納すれば無限に本が買えるってことだ。つい、前世の感覚になってしまったけど、ここは異世界。異世界流の収納術がある!
「サリサがいてくれて、本当に良かったよ! 好き!」
思わずサリサに抱き着いた。サリサがいるお陰で無限の収納が手に入ったも同然なんだから。
「なっ、何を言っておるんじゃ!」
「ふふっ、もう離れられませんね」
本当にこの三人が一緒で良かった。こんなに充実した毎日を過ごせられるのだから。




