61.香辛料
「おー、凄いな! あの黄金のブルカエルを捕まえるだなんて!」
串焼きのおじさんに報告すると、驚いたように声を上げた。
「まさか、お前たちみたいな子供が捕まえるなんてな。実は強いんだな」
「実はじゃない! 本当にわらわたちは強いんじゃ!」
「少しずつ強くなっているみたいなんです。だから、捕まえられたんだと思います」
「本当にね……良かった」
しみじみと思う。もし、黄金のブルカエルを捕まえられなかったらどうなっていたか。屋台に来れなくなっていたし、食事だって白飯だけだったし。
「本当に金は大切じゃ……。今度からはちゃんと残金を見て、行動しなくてはな」
「良い生活をしすぎましたね。これからは自重しないといけません」
「いや、お金入ったら真っ先に買い漁っていたじゃん」
そう、100万コルトが手に入ると、すぐに食材を買い、動画を買い、お小遣いを貰い。結局、いつも通りの生活に戻ってしまった。
「だって、メルのスキルが万能すぎるのがいけないんじゃ! あれは人を欲望の塊にする、危険なスキルじゃ!」
「私もこんなに欲深いとは思いませんでした。お金が手に入った瞬間、買いたいっていう気持ちが膨らんで……」
二人は恐ろしいと言わんばかりに、恐々としていた。ネットショッピングの手軽さと欲を満たす商品の数を目の前にすれば、そうなってしまうのも頷ける。
ここは、私がしっかりしなければ! と、言いつつも、私もちゃっかりと串焼きを食べに来ているわけだが。
「はははっ、何事もほどほどがいいんだよ。さて、次の串でも焼くかな……いててっ」
椅子に座っていたおじさんが立ち上がろうとすると、膝を擦った。前から膝を擦っていたけれど、私たちの前で痛そうにするのは初めてだ。
「おじさん、膝が悪いの?」
「あぁ、この商売をやっていると、ずっと立ちっぱなしなんだよ。そしたら、膝が痛くなるんだ。どこも同じさ」
「ポーションとか回復魔法では治らない?」
「こういう痛みは慢性化しちまっているから、それじゃあ治らないな」
じゃあ、毎日とても辛いじゃないか。それなのに、私たちの為に立って串を焼いてくれていたなんて。
もしかして、原因を取り除けば、膝が良くなるかもしれない。私はおじさんの足に鑑定をかけてみた。
【変形性膝関節症】
・長期間による労働と加齢による軟骨の摩耗
なるほど、今はこの病気にかかっているんだ。たしか、軟骨がすり減ることでなる病気だったよね。それじゃあ、ポーションでも回復魔法でも無理か。
おじさんは膝を気にしながら、串焼きを焼いている。その姿を見て、少しだけ心が痛んだ。
ここまで親しくなったおじさんに何か出来ることはないか? そう考えていると、一つの方法を思いついた。
「ねぇ、二人とも。おじさんに、サポーターを買ってあげたいんだけど、いい?」
「サポーターってなんですか?」
「膝なんかを補助する装具かな。それをつければ、痛みが和らぐんだよね」
「それは良い物じゃのう。おじさんの事も気になるし、一肌脱いでみたらどうだ?」
二人の了解を得た。私はネットショッピングを開くと、膝のサポーターを探した。すると、すぐに出てきて画面に表示された。
この中で良い物は……うん、これにしよう。買うサポーターを決めると、購入ボタンを押す。すると、目の前に膝用のサポーターが現れた。
すぐにおじさんに話しかける。
「おじさん、これを膝につけてみて」
「これはなんだ?」
「サポーターっていうんだよ。これで、膝の痛みが良くなるかも」
おじさんを椅子に誘うと、そこに座らせる。そして、私が実演して膝につけてみた。
「どう? これで、少しは良くなると思うんだけど」
「どれどれ? ……おっ、楽になった! これ、凄いな!」
スッと立ち上がり、驚いた顔になる。どうやら、サポーターが効いたみたいだ。
「こんなものがあるなんて知らなかったよ。どれ、いくらになる? 買わせてもらうよ」
「ううん、お金はいらない。いつもお世話になっているから、そのお礼だよ」
「お世話って……」
私たちの言葉におじさんは驚いた顔をした。
「こうして仲良くしてくれるし、私たちの悩みの話しも聞いてくれるし、凄く頼りになっていたんだよ」
「こんなに親身になって話してくれる人はいなかったからな。お陰で心に余裕を持てたのじゃ」
「近くにいるだけで、とても安心しました。頼りになる人がいて、本当に助かったんです」
「お前たち……」
旅をしていく中で大事なものがある。それは行く先々でどんな人に出会うかだ。
子供の私たちだけでは不安で、もし対応出来ない問題とかが起こった場合、頼れる人がいない。それはとても心細い。
だけど、こうして旅先で良い人に出会うと、そんな気持ちも薄れてくる。少しでも頼りになる人がいるだけで、私たちの旅は何倍にも楽しくなるのだ。
「おじさんが優しくしてくれたから、ここで色々と活動出来てたんだよ。だから、その感謝にサポーターはあげるね」
「……全く、お前たちは本当に良い子だな。……よし、決めたぞ」
おじさんはカバンを開き、中から紙とペンを取り出す。そこに文字を書くと、私たちに手渡してきた。
「ほら、持ってきな。お前たちが欲しがっていた香辛料の売ってくれるバイヤーだ」
「えっ……でも、まだ百本食べてないよ?」
「これで百本分になった。だから、受け取ってくれ」
そう言って笑うおじさん。私はその紙を受け取ると、大事に抱きしめた。
「おじさん、ありがとう!」
「良いってことよ。ほら、早く買いに行っちまいな。あまり量が取れない香辛料だから、売り切れてしまうぞ」
「うん、行ってきます!」
おじさんに別れを告げると、私たちは紙に書いてあったお店を目指して駆け出して行った。




