59.白飯に味付けを
それからというもの、私たちは毎日のように湿地帯に行って、黄金のブルカエルを探した。
歩きづらい地面を進み、時々足を取られて、顔面から倒れることもしばしば。
体力を根こそぎ奪われながら、歩きに歩いて歩き回った。それでも、どうしても見つからない。
「はぁ……今日も見つからなそう……」
「もう、普通に働きましょうよ。その方が楽ですよ?」
「まだじゃ。まだ、諦めるには早い!」
私とティナがうんざりとした様子でも、サリサはやる気十分だ。お金はここまで人を変えるのか……と、内心驚いたいた。
サリサがこれだけやる気を出しているんだから、頑張らないと。そう思って、辺りを見渡した時だった。
地面に光るものを見つけた。目を凝らしてみてみると――それは黄金に輝くブルガエル。
「あっ、あっ、ふ、ふたっ」
「ん? どうしたんじゃ?」
「あっ、み、みっ……!」
「香辛料の効果が今頃出たんでしょうか?」
「お、お、おっ……黄金のブルカエル!」
「「えっ!?」」
指を差すと、二人は勢いよく見る。すると、しばらくの静寂の後――。
「い、いた! いました!」
「つつつっ、捕まえるのじゃ!」
私たちは一斉に駆け出すと、黄金のブルガエルは――残像を消えていなくなった。
「はっ? えっ? ……めちゃくちゃ速くない? もう、いなくなったよ」
「ティナ! 探索魔法じゃ!」
「は、はい! ――あぁっ、なんか凄い素早さで動いている気配があります!」
「きっと、それが黄金のブルカエルじゃ! 行くぞ!」
私たちはティナの探索魔法を頼りにに黄金のブルカエルを追った。走りづらい湿地帯を進み、追っていく。だけど、どれだけ追っても黄金のブルカエルとは会えなかった。
「あっ、すいません……。見失いました」
そんな時、ティナが申し訳なさそうに言葉を零した。
「ううん、全然いいよ。突然の事だから用意できなかったから」
「そうじゃ! この目で確認出来ただけでもいい。作戦を立てて、次は必ず捕まえるようにしよう」
事前の準備が足りなかった。次こそは見つけたら、最善の行動が出来るように考えておかなければ。
「じゃが! 黄金のブルカエルは本当にいたじゃろう!? これは絶対に捕まえなければ!」
「はい! 絶対に捕まえましょう!」
「うん!」
黄金のブルカエルを見つけて、私たちにも火が着いた。これは絶対に捕まえなければ。だけど、これが破産への第一歩だったとは……。
◇
それから来る日も来る日も黄金のブルカエルを探し回った。姿を見つけるのは至難の業で、時々しか姿を見つけることが出来なかった。
もしかしたら、手が届くかも。その期待感で私たちは貯めたお金を切り崩して生活をしながら、黄金のブルカエル探しに夢中になった。
その生活と言えば、以前と変わりない。串焼きで小腹を満たしつつ、存分に食材を使って美味しい食事を作る。
夜は動画を買って動画鑑賞をする。そんな順風満々な生活を送っていれば――お金は減っていく。
黄金のブルカエルさえ捕まえればなんとかなる。そんな確証もない収入を当てにした生活を続けていった。
そして、それに気づいた時には――もう遅かった。
「ざ、残金が……ない!」
今日の食材を買おうとネットショッピングを開けば、残高は143円。
「そ、そうだ! 昨日の夜にあれもこれもと、動画を買ったんだった!」
生活の質は上げるのは簡単だけど、下げるのは至難の業だ。美味しい食事と清潔で綺麗な生活、娯楽漬けの日々。収入がないままそんな生活を続けていたら、破産になるのは考えなくても分かることだったのに!
「そうだ、現金を入金して……現金は2350コルトしかない。これだと、明日の分の串焼きが……」
思わず頭を抱える。贅沢しすぎたツケがここにまで! ……とにかく、明日の串焼きの分は確保するとして、今ある食材でどうにかしないと。
「今ある食材は……米と調味料くらいか……」
冷蔵庫を開けると、それしか見えない。
「仕方がない。今日は白飯に調味料かけて食べようか」
別に白飯と調味料だけでも十分に美味しいし。なんだったら、それだけでも一か月はいけるっていう感じだし、問題ないよね。
私は少し多めのご飯を炊き、色んな調味料を用意して、テーブルに持っていった。
「な、なんじゃ? 米しかないじゃないか!」
「ど、どうしたんですか!?」
やっぱり、二人がそれを見て驚愕する。昨日まで豪勢な食卓だったのに、今日は白飯だけだったからだ。
「二人に伝えなきゃいけないことがあります。もう、食材を買うお金がありません。私たちは贅沢をしすぎました」
「な、なんじゃと!?」
「そんなっ!?」
二人は衝撃を受けたように驚いた顔をした。今まで美味しい物を食べてきたから、それがなくなるとショックを受けたのだろう。
「白飯だけ……。これでどうやって食うんじゃ……」
「まぁ、色々食べ方はあるよ。ちょっと待って、用意するから」
私は三つの茶碗に調味料を乗せていく。一つ目は卵と醤油。二つ目はバターと醤油。三つ目は鰹節とチーズと醤油。
「はい、好きな物を選んで」
「うぅ、これだけか……。侘しいのう……。わらわは卵と醤油にしよう」
「我慢するしかないですね。私はバターと醤油にします」
「私は鰹節とチーズと醤油だね」
気落ちしたようにお茶碗を手に取ると、手を合わせて挨拶をした。
白飯の上を見てみると、チーズが熱で溶けてトロトロになり、醤油のかかった鰹節の良い匂いがする。
熱々の白飯に溶けたチーズが絡みつき、そこへ醤油を吸った鰹節がふわりと混ざった。一口食べてみる。
「……すごく美味しい。チーズの濃厚なコクがご飯に絡んで、醤油の香ばしさがそれを引き立ててる感じ。それに鰹節の旨味も加わって、なんだか和風と洋風のいいところ取りみたい。昔、何もなかった時にこれでご飯食べてたなー」
久しぶりに感心してしまった。これはこれで立派なご飯だ。
隣ではサリサが卵かけご飯をかき混ぜている。黄身と白身がご飯全体に絡み、つやつやと輝いていた。そのまま勢いよく口へ運ぶ。そして目を見開いた。
「おおっ! これは凄いぞ! 卵がご飯一粒一粒を包み込んでおる! まろやかで優しい味じゃし、醤油の香りも良い! しかも食べやすいのう! するすると口に入っていくぞ! 高級料理のような派手さはないが、不思議と箸が止まらん! これなら毎日でも食べられそうじゃ!」
さっきまで落ち込んでいたとは思えない勢いで食べ始める。
一方、ティナはバター醤油ご飯を見つめていた。溶けたバターが白飯に染み込み、湯気と一緒に食欲をそそる香りが漂っている。
恐る恐る一口。
「わっ……。なんですか、これ。すごく香りが良いです。バターの風味がご飯全体に広がっていて、それだけでも十分美味しいのに、醤油が加わることでさらに香ばしくなっています。材料は二つだけなのに、まるで焼きたての料理を食べているみたいです。おかずがなくても満足できるなんて思いませんでした」
ティナも驚いた顔をしている。どうやら、二人ともこの白飯の食べ方を気に入ってくれたみたいだ。
もぐもぐ。もぐもぐもぐ。私たちは無言になった。食べるのに忙しくなったからだ。
「うまいのう!」
「美味しいです!」
「意外といけるね!」
さっきまで絶望していた食卓とは思えない。箸が止まらない。茶碗の中のご飯がみるみる減っていき、あっという間に空になった。
「う、美味かった……。ただ調味料をかけているだけなのに、これほど美味しくなるなんて」
「不思議です……。いつも使っている調味料だけでも、こんなに美味しくなるなんて」
「これはこれで美味しいから夢中になるんだよね。まだ、白飯残っているけど、食べる?」
「もちろんじゃ! 次は違うやり方も試してみたいのう!」
「他にも食べ方があったら教えてください!」
二人とも、この食べ方を気に入ってくれたみたいだ。私は白飯を茶碗に予想と、今度はどんな調味料を試してみるか話し合った。
節約ご飯だったけれど、食卓はいつもと同じく明るくて賑やかな時間になった。
だけど、お金は早急になんとかしないとけない。明日、黄金のブルカエルを捕まえられなかったら、諦めるしかない。




