58.高額依頼
冒険者ギルドに入ると、賑やかな声が聞こえた。この町の冒険者ギルドも、今までの町と似たような賑やかさだった。
「ここでは何が稼ぎ頭になっているか調べないといけないね。まずは、依頼ボードを見よう」
「一億コルトくらいの依頼はないかのう」
「そんな金額の依頼をこなせられないと思うのですが……」
お喋りしながら依頼ボードの前に行く。そこには様々な依頼が張り出されて、この冒険者ギルドの事がよく分かる。
「へー。魔物討伐よりも町の中の依頼がたくさんあるね。屋敷のメイドとか募集しているよ」
「それは長期の依頼じゃろう。短期でがっぽり稼げる依頼が良いのう」
「んー……長期で稼げるものはたくさんありそうですが、短期ではなさそうですね」
どうやら、この町の周辺には目立った魔物がいないようだ。どこも見たことのあるような魔物ばかりで、珍しさはない。
「やっぱり、コツコツ討伐しかない?」
「それが一番稼げそうですね」
「いやいや、探せばあるかもしれんぞ?」
私とティナは諦めているが、サリサは諦めていない。依頼書を一枚ずつ確認していき、高額依頼がないか探しているみたいだ。
「おっ、この紙はなんじゃ? やけに古臭い紙じゃが……」
新しい紙の下に、古い紙が張り出されているのを見つけた。その依頼を確認してみると、依頼書には小さなカエルが描かれていた。
「カエルの魔物を討伐しろってこと?」
「……いや、これは捕獲の依頼じゃ。えっと、黄金のブルカエルの捕獲。報酬額は……100万コルトじゃと!?」
「凄い! 高額依頼です!」
まさか、ここで高額依頼を見つけるなんて!
「他になんて書いてあるの?」
「なんでも、この黄金のブルカエルは小さい割には物凄く強くて、素早くて、数も希少で、捕まえられない魔物らしい」
「だから、高額依頼になったんですね」
なるほど、それだけ厄介な魔物ということか。
「この依頼を受けんか!? 普通じゃないが、やる価値はあるぞ! なんてたって、100万コルトも貰えるんじゃからな!」
興奮気味にサリサが訴えてきた。確かに、これを達成すれば、お金がいっぱい入ってくる。私たちには必要だ。
でも、100万コルトもする依頼……。絶対に一筋縄ではいかなさそうだ。私が考えるように首を傾げていると、隣のティナも考えているのか唸っている。
「どうした、二人とも! 金じゃ、金が手に入るんじゃ! 逃す手はないぞ!」
「いや、そう簡単にいかないなって思って」
「……普通にコツコツ働いたほうがいいんじゃないですか?」
「何を言っとるんじゃ! このチャンスを逃すな! さぁ、カウンターに行って話を聞くぞ!」
サリサは強引に依頼書を取ると、私たちを置いてカウンターに行ってしまった。
「本当に大丈夫でしょうか? 絶対に黄金のブルカエルはいわくつきじゃないですか? コツコツやった方がよくありません?」
「うーん……私もそう思うんだけど。当たれば大きいし……。とりあえず、挑戦してみようか」
少しでも多くのお金が欲しい私はサリサの依頼に乗ることを決めた。ティナを引き連れて、サリサが駆け寄っていったカウンターに近づく。
「……本当に大丈夫ですか? 数年間、誰も捕まえることが出来なかった魔物ですよ?」
「大丈夫じゃ! なんてったって、わらわは強いからな! じゃから、その必要なアイテムというものを出さんか!」
「この魔物を追って破産した人もいるので、ちゃんと考えて……」
「大丈夫じゃって! わらわを信じろ!」
なんか、押し問答をしているようだけど……本当に大丈夫? 不安に思っていると、受付のお姉さんがため息を吐いて、奥へと引き下がった。
そして、袋を手に持って戻ってきた。
「この袋は黄金のブルカエルの力を封じる力が付与されたアイテムです。この袋に入れて、生きて捕まえてください」
「ほう、そんなものがあるのか! だったら、とっと捕まえて100万コルトを稼いでみせるのじゃ!」
サリサは袋を奪うように取ると、お姉さんが困ったように口を開く。
「無理だったらすぐに諦めた方がいいですよ。ここの人たちは普通に働いたほうが稼げると理解して、それには手を出してませんから」
「じゃったら、わらわたちの独壇場じゃないか。見つけ次第、片っ端から捕まえてやるから、1000万コルトくらい用意して待っておれ!」
大口を叩いたけれど、大丈夫かな? 不安に思っていると、サリサがこちらを振り向いた。
「これで明日からはわらわたちも大金持ちじゃ! 行くぞ!」
凄いやる気に満ち溢れたサリサが私たちを引きつれて、冒険者ギルドを出ていった。
◇
夕暮れ時。西の空は茜色に染まり、森の木々の隙間から差し込む光が湿地帯の水面を赤く照らしていた。
風が吹くたびに背の高い葦がざわざわと揺れる。どこかで鳥が鳴き、遠くでは虫の声が響いている。
本来なら幻想的で美しい光景なのだろう。けれど、そんな景色を楽しむ余裕は私たちにはなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
私たちは湿地帯の真ん中で立ち尽くしていた。そして、限界を迎えたように、その場へへたり込む。
べちゃっ、と泥水が跳ねた。
「もう……嫌です……」
ティナが力なく呟いた。その姿は酷い有様だった。服には泥がべったり付着し、髪には枯れ草が絡まっている。
もちろん私も同じだ。靴は泥に埋まり、服の裾は茶色く変色している。顔にも泥が飛び散っていた。
「私も……もう無理……」
私はそのまま仰向けに倒れ込んだ。湿った地面の感触が背中に伝わる。
正直、もう汚れることすら気にならない。あれからずっと歩き回ったのだ。黄金のブルカエルを探して。
「なんでじゃ! どうしてじゃ! 全然見つからんではないか!」
その中でまだ元気が余っていたサリサが叫ぶ。まだ、そんなに余力があるなんて……流石レベル100越えだ。
私たちは湿地帯を探し回った。地図を見て、地元の人に話を聞いて、過去に目撃情報があった場所も全部調べた。
なのに、一匹も見つからない。ティナの探索魔法を発動させて、カエルは見つけた。だけど、普通のカエルしか見当たらない。
特別な黄金のブルカエルにはとうとう出会わなかった。
「この依頼、本当に難しいんじゃない? やっぱり、普通の討伐したほうがいいよ」
「湿地帯だから歩くのも大変ですし、普通に切り替えましょう?」
「一日駄目だったからって諦めるんじゃない! きっと、明日は見つかる! じゃから、諦めずに探すんじゃ!」
私とティナは心が折れかけているが、サリサだけはやる気に満ち溢れていた。それだけ、100万コルトが魅力的だったのだろう。
「明日こそ、見つけてやるからな! 待っておれ、黄金のブルカエル!」
まさか、破産寸前まで追い詰められるとは、この時は思わなかった。




