57.香辛料が欲しい
「あっはっはっ! そうか、あの香辛料が気に入ったか!」
店主のおじさんが椅子に座りながら、上機嫌に笑った。串焼きを食べた後、私たちはおじさんと会話をしていた。
「あの香辛料もそうだけど、串焼きが美味しかったから!」
「普段冷静なメルがあんなに様子が変わるから、ビックリしたのじゃ」
「それだけ、気に入ったってことなんですね」
興奮気味に話すと、二人は珍しい物を見たように私を見てくる。正直言って、あんな姿を見られたのは恥ずかしいが、それよりもその香辛料に夢中になった。
まだ、体がざわざわして止まらない。気を抜くと、二人に抱き着いてしまいそうだ。
「ん? まだ、触って欲しそうじゃのう。ほれほれ、もふもふ」
「あっ、私もやります!」
サリサが悪戯っぽく笑うと、頭と耳を撫でてくる。すかさずティナが負けじと参戦してきた。うぅ、恥ずかしいけれど、気持ちがいい! ゴロゴロと甘える猫にでもなった気分だ。
「初めての香辛料だと、結構刺激が強いが、慣れてくるとそうでもなくなるぞ」
おじさんは膝を擦りながら教えてくれる。じゃあ、この感じは始めだけってこと? 慣れてくると、どんな風に変わっていくのだろうか?
「なんじゃ。このメルは今だけなのか? それはそれで、寂しいのう。こんなに甘えたがりなメルは珍しいから、ずっと見ていたいのじゃ!」
「可愛いですよね。猫が甘えてきている感じで、構ってあげたくなります」
「本当は恥ずかしいんだけど……気持ちが興奮して、もっと甘えたいってなる」
「これで喉が鳴ったら、本当の猫じゃ!」
「一日中、ゴロゴロして撫でまわしたいですね!」
普段なら猫扱いしてきたら恥ずかしくて堪らないけれど、今は全然平気。もう理性が負けているような気がする……負けているのか。
「その香辛料があれば、今後もメルを可愛がれるんじゃないでしょうか?」
「それは名案じゃな! おい、店主。この香辛料を分けてくれないか?」
「それはいいね! これ、良い匂いで美味しいから、欲しい!」
三人で店主に視線を向けると、店主はニヤリと笑った。
「これはそう簡単に手に入るものじゃねぇ。俺が独自のルートで手に入れたものだ。だから、そう簡単に渡すわけにはいけないな」
「そ、そんな!? ど、どうすればいいの!?」
「そうだなぁ……。串焼きを百本くらい買ってくれたら、教えてもいいぞ」
「串焼き、百本……」
それはもう、今日は教えないって言っているようなものだ。
「そんなに教えてもらいたかったら、通って串焼きを買ってくれ。そしたら、教えるかもなぁ」
「くっ……そう簡単には教えてもらえないか。是が非でも、この香辛料は手に入れたいぞ」
「メルも欲しいみたいですし、あったら面白いですし。何をしてでも手に入れましょう」
二人が意外にもやる気で驚いている。二人にそんなメリットある? と、思わなくもないけれど、これは嬉しい援護だ。
「だったら、頑張って通うんだな」
「うん、絶対に教えてもらいたいから、通う!」
「ははっ。楽しみにしているよ」
◇
「二人とも、協力してくれてありがとう」
おじさんと別れると、私は二人にお礼を言った。すると、二人は笑いながら首を横に振る。
「気にしないでください。メルのためにも、私たちのためにも、あの香辛料は手に入れたいです」
「それにあの味も美味しかったしな。メルの料理に加えてくれたら、わらわたちも嬉しい」
「だよねー。あの独特の味、美味しかった。変わった香辛料だったけど、使い方次第で色んな料理に使えそう」
どうやって料理をするか、それを考えるだけでも楽しい。肉には合うと分かったから、魚に合うとか、野菜とか……。考えれば考えるほど、新しいレシピが頭をよぎる。
「あっ」
その時、ティナが何かを思いついたように声を上げた。
「どうしたの、ティナ」
「ちょっと、卑怯なことを思いつきました」
「卑怯? どんなこと?」
「鑑定を使えば、香辛料の詳しいことが分かりませんか?」
「「あー……」」
確かに、鑑定を使えば香辛料の事は分かる。
「でも、あのおじさん……独自のルートで入手しているから、それが分からないと手に入らないかも」
「普通では入手できないような雰囲気じゃったな」
「だったら、今すぐに取りにいくのも無理そうですね。いい案だと思ったんですが……」
香辛料の事を詳しく調べても、それを取りに行くには他の情報が必要だ。そのためにも、あのおじさんから香辛料の事を教えてもらわなければならない。
「とにかく、しばらくはこの町に滞在じゃな。金を稼ぎつつ、串焼きを食べないと」
「串焼きのお金もかなり稼がないといけませんねぇ……」
「がっぽりと稼ぐ手段があればいいのじゃが、そういう依頼があれば受けることにこしたことはないじゃろう」
「良い依頼があればいいね」
串焼きのお金も稼がなくちゃいけないし、日常の生活費も稼がなきゃいけない。なんて世知辛い世の中なんだ……お金がないと何も出来ないなんて。
「こうしちゃいられませんね。早速、冒険者ギルドに行って依頼を見ていきましょう」
「町も十分に堪能したし、働くかのう。まだ、のんびりとしていたい気もするが……」
「とにかく、稼ごう! 動画を買ったせいでお金がかなり減ったから、ここでひと稼ぎだよ!」
私たちは頷き合うと、冒険者ギルドに向かっていった。




