53.カップ焼きそば、とアレンジ
ぐーっ、という音が聞こえると、お腹の重さが増した。その違和感で目を開けると、寝室に僅かに差し込んだ眩しい日の光が良く分かった。
「……お腹、減った」
そういえば、昨夜は寝ないで動画鑑賞を楽しんで、寝たのは朝方だった。あれから耐えられずに寝てしまったけれど、今は何時ぐらいだろうか?
重たい体を起こし、ヘッドボードに置いた時計を見る。すると、時間は午後一時前だった。
「うわー……もうこんな時間……」
朝に寝て、昼過ぎに起きるなんて、前世振りだ。この異世界ではありえない時間の使い方に少しだけショックを受けた。
「それにしても、お腹空いたな……」
またお腹がグーッとなると、空腹が強くなる。体はだるいし、頭は冴えないし、今から料理をするのは億劫だ。
「何か、簡単に食べられるものでも食べようかな……」
いつも栄養満点の食事を作っているんだから、たまにはそんな日もあってもいい。というか、簡単に作れるものでも美味しい物はたくさんある。
「二人とも、起きてー。一緒に昼食を食べようよ」
起き上がって二人を揺さぶった。すると、二人のお腹からもグーッという音が鳴り、目を覚ます。
「……腹減った」
「お腹、空きました……」
やっぱり、二人も空腹で起きたみたいだ。のっそりと体を起こして、体を縮こませる。
「まだ眠いけど、お腹が空いて堪らん……。メル、何かすぐに食べられそうなものはあるか?」
「いつものちゃんとした料理じゃなくていいんです。前に食べた、即席の袋ラーメンでもいいんですけど……」
空腹が耐えられないとばかりに潤んだ目で訴えてくる。やっぱり、すぐに食べたいよね。
「どうせなら、まだ食べたことのないものを食べようか。カップ焼きそばにしよう」
「カップ、ですか? 器に入っている物でしょうか?」
「なんでもいい! それにしよう!」
昼食に食べるものが決まった。私たちはパジャマのまま、リビングに移動をした。キッチンに行くと、お湯を沸かし、その間にカップ焼きそばを買う。
「あっ、どうせなら、アレンジもしちゃおうか!」
これだと、色んな味が試せて楽しいかもしれない。追加でマヨネーズ、天かす、かつおぶしを買い足し、冷蔵庫の中からバターと醤油を取り出した。
お湯が沸き、カップ焼きそばにお湯を入れて三分。お湯を捨て、ソースを絡めると――完成だ。
「おまたせー。カップ焼きそばだよ」
テーブルにカップ焼きそばを並べる。すると、ソースのいい香りが漂ってきた。
「これはまた、美味しそうな匂いじゃな! 早く食べるぞ!」
「わー、とても美味しそうです」
「じゃあ――」
「「「いただきます!」」」
声を合わせると、すぐに箸を持って、麺をすくう。口の中に入れると、ソースの香ばしさが広がって、一気に唾液が出る。
「んー、美味しい!」
空腹だから余計に美味しく感じる。口いっぱいに詰め込むと、幸せ絶頂といったところだ。
「んまいな! ちょっと麺がすすりづらいが、味がとても美味い! これは病みつきになる味じゃぞ!」
「香ばしくて、味が濃くて、空腹の今にピッタリです! あぁ、どんどん食べちゃいますー!」
二人も気に入ってくれたようだ。物凄い勢いで麺がなくなっていくのが見える。
「じゃあ、ここで味変しようか」
「味変?」
「なんですか、それは?」
「味を変えて楽しむんだよ。今よりももっと美味しくなる可能性を秘めているんだよ」
そういって、テーブルに並べた調味料を勧める。
「マヨネーズ、天かすとかつおぶし、バターと醤油。どれをかけてみたい?」
どれも、カップ焼きそばにあうアイテムだ。二人は真剣な顔をしてアイテムを見つめた。
「うむむっ。わらわは食べたことのないものを選びたい。じゃから、天かすとかつおぶしじゃ!」
「私はバターと醤油にします。どちらも美味しいと分かってますから、もっと美味しくなるはずです」
「私はマヨネーズだね」
それぞれ気に入ったアイテムを手に取ると、カップ焼きそばにかける。これで、アレンジカップ焼きそばの完成だ。
私たちはワクワクとした様子で、それに手をかけた。
まずは私からだ。マヨネーズが絡んだ麺を箸で持ち上げ、そのまま口の中へ運ぶ。
「んっ……!」
途端に、ソースの濃厚な味わいにまろやかさが加わった。
そのまま何度か咀嚼すると、マヨネーズのコクがソースと混ざり合い、口いっぱいに広がっていく。
「やっぱり美味しい!」
「ど、どんな感じじゃ?」
「ソースの味が少し優しくなるんだけど、その代わりにコクが増すんだよ。味が丸くなるっていうのかな? 濃厚さが増して、さらに食べ応えが出る感じ!」
もう一口食べる。
「それに、ソースの酸味とマヨネーズの酸味が合わさって絶妙なんだよね。味が濃いのに重たすぎなくて、どんどん食べたくなる!」
「ほうほう」
「これは定番アレンジって言われるだけあるよ。初めて食べた人でも絶対に気に入ると思う」
そう言って頷くと、今度はサリサが期待に満ちた顔で麺を持ち上げた。
「では、わらわも!」
天かすとかつおぶしが乗った麺を大きく頬張る。もぐもぐと咀嚼した次の瞬間――。
「おおっ!?」
サリサの眉がぴくりと動いた。
「なんじゃこれは!」
「どう?」
「食感が全然違うぞ! 麺は柔らかいのに、その中に時々サクサクしたものが混ざっておる! それが面白い!」
どうやら天かすが気に入ったらしい。
「それだけじゃないのう。上に乗っておる薄い削り節から、なんとも言えぬ香ばしい香りが広がる!」
かつおぶしを指差しながら目を輝かせる。
「最初はただの乾燥した何かかと思ったが、噛まなくても香りが出てくるではないか!」
「かつおぶしは香りが強いからね」
「うむ! 元の料理も美味かったが、これはもっと賑やかな味じゃ! 一口ごとに違う楽しさがある!」
サリサはすっかり夢中になり、次々と麺をすすっていく。
「これは好きじゃな! 食べていて飽きん!」
満足そうな笑顔だった。
すると今度はティナが、慎重にバターと醤油を絡めた麺を口へ運ぶ。もぐもぐと咀嚼した後、ぱちりと目を見開いた。
「えっ……」
「どうしたの?」
「すごいです……」
ティナは驚いたように麺を見つめた。
「元々のソースの味が消えるかと思ったんです。でも違います。ちゃんとソースの味は残っているのに、別の料理みたいになっています」
「でしょ?」
「バターの香りがすごく豊かで、そこに醤油の香ばしさが加わって……」
ティナは言葉を探すように少し考え込んだ。
「なんというか、高級感があります」
「高級感?」
「はい。元の焼きそばは元気で力強い味だったんです。でもこちらは落ち着いていて、じっくり味わいたくなるような美味しさがあります」
なるほど、そんな表現もあるのか。
「アレンジ一つでこんなに美味しさが変わるなんて、楽しいよね」
「じゃな! なんだか、得した気分じゃ!」
「アレンジって凄いんですね」
私たちはアレンジの凄さを味わいながら、カップ焼きそばを食べきった。
「ふー、美味しかったね!」
「はい! とても良かったです」
私とティナが満足そうにしているが、サリサは難しい顔をしている。
「どうした、サリサ」
「朝食を食べてなかったから、なんだか物足りなくて……」
「……わ、私も」
その気持ちは分かる。やっぱり、カップ焼きそばだけじゃ、お腹は満たせないか。ということは――。
「じゃあ、これから動画の続きを見ながら、ポップコーンを食べるのはどう?」
「動画の続きじゃと!? それは、いい案じゃ! それに、ポップコーンなるものが気になるぞ!」
「良いですね! 今日はとことんのんびりしちゃいましょう!」
二人には動画を見ながらおやつを食べる幸福感を味わってもらおう。ついでに、飲み物も用意すれば完璧だな。
「じゃあ、今日はとことんのんびりするぞー!」
声を上げると、二人は「おー!」と元気よく答えてくれた。




