51.旅先の休憩
開けた窓から気持ちのいい風が吹き込んでくる。窓枠に肘をつけて、流れていく景色を見た。見ていると心が穏やかになり、自然と癒やされていく。
そして、車内から流れる音楽。その音楽に耳を傾けているだけでも、心地よくて、あっという間に時間が過ぎていく。
天気の良い日。青空がどこまでも広がり、太陽からは温かい日差しが差し込んでくる。まさに、ドライブには打ってつけの日だ。
「大分町から離れましたね。周りが大自然だらけです」
「そうじゃのう。道にも誰もいないし、音楽以外は静かじゃのう」
「今日は国境近くまで移動出来たらいいね」
「じゃあ、スピードを上げますか? そしたら、必ず着きますよ?」
「じゃから、なんでティナはスピードを上げることしか頭にないんじゃ!」
まぁ、ここまで真っすぐな道が続いていると、スピードも上げたくなっちゃうよなぁ。そう思うけれど、口にしない。口にしたら最後、ティナは絶対にスピードを上げてしまう。
「急ぐ旅でもないし、のんびり行こうよ」
「でも、障害物がないと分かると、突っ込みたくないですか?」
「ならん、ならん! それはティナだけじゃ! それに、今でも十分速いぞ!」
やっぱり、ティナにハンドルを握らせたら、性格が変わる。いつ、スピードを上げるか分からないから、凄くハラハラする。
「じゃあ、障害物が出てきませんかね。そしたら、キャンピングカーで――」
「じゃから、その危険な発想はやめい! どうして、落ち着いていられんのじゃ!」
「だって、その方が楽しいじゃないですか。サリサは私から楽しみを奪うんですか?」
「楽しいのはティナだけじゃ!」
「賑やかだなー……」
ティナとサリサの攻防を聞きながら、私は景色を楽しんでいた。すると、視界に丘が見えてきた。
とても高い丘で、登ればきっと見晴らしがいいだろう。移動中の休憩にもってこいだ。
「ねぇ、二人とも。あの丘に登って、休憩しない? 座っているのも疲れたからさ」
「そうじゃのう、そろそろ動きたいところじゃった。良いと思うぞ」
「私はまだまだ運転できますが、無理をしたら大変ですものね。賛成です」
すると、ティナが大きくハンドルを切り、丘に向かっていく。近くに行くと、その丘の大きさが良く分かる。
目の前まで来ると、キャンピングカーを止め、みんなで降りた。
「おー、結構な高さがあるのう。二人は登れそうか?」
「私は平気だよ。ティナは大丈夫そう?」
「うーん、そうですねぇ……。キャンピングカーで登りますか」
「ティナは運動した方がいい! というわけで、みんなで登るぞ! ティナが動けなくなったら、わらわが背負ってやるからな!」
そう言って、サリサが先頭に丘を登っていった。
「これはいい運動になるぞ。メルもティナも早く来るのじゃ!」
体が動き出すと、途端にサリサが元気になる。全く、分かりやすい。
「ふふっ。サリサがいるから、不安はありませんね。登りましょうか」
「うん。きっと、景色が良いと思うよ」
私たちもサリサを追って、丘を登り始めた。始めはスイスイ上っていたが、中腹に来るとティナが遅れ始めた。
「ティナ、大丈夫?」
「ちょっと、キツイですね。レベルは上がっているのに、筋力とか体力とか二人に比べて上がりづらいんですよね」
「まぁ、魔法使いタイプだからね。魔力は上がるけど、そっち方面は上がらないんだ」
レベルも順調に上がっているが、ステータスの上昇には差がある。ティナは魔法使いタイプだから、魔法に関するステータスは上がるけど、体力や筋肉といったステータスは上がっていない。
「おーい、二人とも! 遅いぞ、何をしておるんじゃ」
「いや、ティナが……」
「もう疲れたのか? 仕方ないのぅ……」
その時、サリサが勢いよく丘を降りてきた。すると、ティナに近づき、ひょいっと軽々と持ち上げた。
「サ、サリサ!?」
「さぁ、行くのじゃ!」
「私はまだ大丈夫ですよー! は、恥ずかしいです!」
「誰も見てないから平気じゃろう!」
そう言って、軽々とティナを担ぎ上げながらサリサは登っていった。私も急いで後を追って、丘のてっぺんに登った。
そして、顔を上げると――。
「わぁ、良い景色!」
思わず声が漏れた。丘の上から見える景色は、どこまでも広がっていた。
足元には緑の草原が広がり、風が吹くたびに草の波がゆらゆらと揺れている。まるで大地そのものが呼吸しているみたいだ。
遠くには深い森が見えた。濃い緑の木々が地平線まで続き、その間を縫うように一本の川が流れている。
太陽の光を受けた川面はきらきらと輝き、まるで銀色の帯を大地に敷いたようだった。
「これは凄いのう……」
サリサも感心したように辺りを見回す。普段は元気いっぱいのサリサも、この景色の前では静かになるらしい。
風が吹き抜ける。丘の上には遮るものがなく、爽やかな風が頬を撫でていった。
草の香り。土の香り。どこかで咲いている花の甘い香り。自然の匂いが胸いっぱいに広がる。
「空も綺麗ですね」
ティナが空を見上げた。雲が点在する青空が広がっている。
見上げるほどに深く澄んだ青色は、どこまでも続いているようだった。空には何羽もの鳥が翼を広げて飛んでいる。風に乗りながら大きく旋回し、自由気ままに空を旅していた。
三人で座り込むと、楽な姿勢になる。それだけで、移動の疲れが消えていくようだ。
「そうだ。景色を見ながら何か飲んで、食べよう」
こういう時はおやつが一番。ネットショッピングを開いて、商品を見る。
「二人とも、何がいい?」
「まだ飲んだことない飲み物が飲みたいです」
「クッキーが食べたいのじゃ!」
「じゃあ……コーヒー牛乳とクッキーにしようっか」
画面をタップすると、目の前に商品が現れた。それを二人に手渡すと、早速食べ始める。
「んっ……」
ティナはコーヒー牛乳を一口飲むと、少し驚いたように目を瞬かせた。
「これは美味しいですね。良い匂いがして、少し苦味があるのに甘くて飲みやすいです」
「気に入った?」
「はい。疲れた体に染みます」
そう言って、ティナは満足そうにもう一口飲んだ。
一方、サリサはクッキーをかじる。サクッという軽い音が響いた。
「おぉ、これは良いのう!」
「どう?」
「甘くて美味しいぞ! しかも、サクサクしておる!」
あっという間に一枚食べ終えると、次のクッキーへ手を伸ばした。
「景色も良いし、おやつも美味い。最高じゃな!」
「ふふっ、そうだね」
「運転も良いですが、こうして途中で休むのもいいですね」
ドライブはドライブの楽しさがあって、休憩には休憩の楽しさがある。のんびりとした旅は色んな楽しさを私たちに運んでくれていた。
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